テンソル理論の導入として,「速さ×時間=距離」のテンソルを説明してきた。
ここから,テンソル一般の論に入る。
この「一般」の意味は,「一般次元」である。
「速さ×時間=距離」の中の速さ,時間,距離は,1次元ベクトル空間としての量であった。
この「1次元」を「n次元」に一般化していく。
以下,ベクトル空間の係数体をKとする。
(1) |
量の単位は,線型空間の基底に一般化される。
単位は,一個の量で成った。
n次元の線型空間の基底は,n個のベクトルで構成される。
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(2) |
量 \( \bf q \) に対しては,a倍の作用を考えた。
線型空間では,これがベクトル \( x \) に対する行列 \( A \) の作用になる。
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(3) |
量の単位の変更 u→u′ は,数aを用いて
で表現された。
ベクトル空間の基底の変更 : \( \widetilde{\bf e} = ( {\bf e}_1, \cdots, {\bf e}_n ) \rightarrow \widetilde{{\bf e}^{'}} = ( {{\bf e}^{'}}_1, \cdots, {{\bf e}^{'}}_n ) \) は,量のときのaが行列Aに替わって,
\[
( {{\bf e}^{'}}_1, \cdots, {{\bf e}^{'}}_n ) = ( {\bf e}_1, \cdots, {\bf e}_n )\, A
\]
で表現されるものになる──Aを基底 \( \widetilde{\bf e} \) から基底 \( \widetilde{{\bf e}^{'}} \) の変換行列と呼ぶ。
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(4) |
量構造の準同型 homomorphism は,「一方が2倍,3倍,‥‥のときもう一方も2倍,3倍,‥‥」の「比例関数」であった。
ベクトル空間の準同型は,線型写像になる。
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(5) |
量の単位 \( \bf u \) から,つぎの双対の関数が導かれる:
\[
{\bf u}^+ : x \longmapsto x\, {\bf u} ;\ \ 数 → 量 \\
{\bf u}^* : x\, {\bf u} \longmapsto x ;\ \ 量 → 数
\]
ただし「双対」のことばは,通常 \( {\bf u}^* \) に対して専ら使われる──「 \( \bf u \) の双対 \( {\bf u}^* \)」。
n次元ベクトル空間Vの基底 \( \widetilde{\bf e} = ( {\bf e}_1, \cdots, {\bf e}_n ) \) から,つぎの双対の線型写像が導かれる:
\[
\widetilde{\bf e}^+ : (x_1, \cdots, x_n) \longmapsto ( x_1\, {\bf e}_1, \cdots, x_n\, {\bf e}_n )
;\ \ \overbrace{K \times \cdots \times K}^n → V \\
\widetilde{\bf e}^* : ( x_1\, {\bf e}_1, \cdots, x_n\, {\bf e}_n ) \longmapsto (x_1, \cdots, x_n) ;\ \ V → \overbrace{K \times \cdots \times K}^n
\]
\( \widetilde{\bf e}^* \) を,\( \widetilde{\bf e} \) の双対という。
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(6) |
比例関数 \( f \) :量1 → 量2 は,量1,量2 それぞれで単位 \( {\bf u}_1,\, {\bf u}_2 \) を固定することで,「y=ax」の「a」に表現された:
\[
\begin{array}{ccc}
& f & \\
量_1 & \longrightarrow & \ 量_2 \\
{{\bf u}_1}^* \downarrow & & \downarrow {{\bf u}_2}^* \\
数 & \longrightarrow & 数 \\
& a & \\
\end{array}
\]
aをfの表現数と一旦呼んでおく。
こうして,比例関数 \( f \) と量 \( \bf q \) に対する \( f({\bf q}) \) は,\( \bf q \) の測定値に \( f \) の表現数を倍する計算で求めるものになった。
線型写像 \( F \) :線型空間 \( V \) → 線型空間 \( W \) は,\( V,\, W \) それぞれで基底 \( \widetilde{\bf e} = ( {\bf e}_1, \cdots, {\bf e}_n ),\, \widetilde{\bf f} = ( {\bf f}_1, \cdots, {\bf f}_m )\) を固定することで,行列Aに表現される:
\[
\begin{array}{ccccc}
& F & \\
V & \longrightarrow & W \\
{\widetilde{\bf e}}^* \downarrow & & \downarrow {\widetilde{\bf f}}^* \\
\overbrace{K \times \cdots \times K}^n & \longrightarrow & \overbrace{K \times \cdots \times K}^m \\
& A & \\
\end{array}
\]
AをFの表現行列と呼ぶ。
こうして,線型写像 \( f \) とベクトル \( \bf v \) に対する \( f({\bf v}) \) は,\( \bf v \) の座標ベクトルに \( f \) の表現行列Aを作用させる計算で求めるものになる。
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