Up テンソルは量の公式」とは 作成: 2018-02-26
更新: 2018-02-26


    ここまで,中身を説明せずに,「テンソルは量の公式」と言ってきた。
    この意味を,簡単に述べておく。


    長方形の面積の公式「タテ×ヨコ」を考えてみる。
    これは量の公式であり,タテ,ヨコは量である。
    量は,線型空間になる──そして量だと,1次元線型空間。

    この「量×量」の「タテ×ヨコ」を数学化すると,テンソル積「タテ\(\otimes\) ヨコ」になる。
    これが,「テンソルは量の公式」という意味である。

    しかしこれでほんとうに,「テンソルは量の公式」ということになっているのか?
    確認する。

    タテ2cm,ヨコ3cm の長方形の面積を求める。
    このとき「タテ×ヨコ」を適用するわけである。
    「2cm×3cm」は,タテ\(\otimes\) ヨコ の要素 \( 2 {\bf cm} \otimes 3 {\bf cm}\) として,\(\otimes\) の文法に順う:
      \[ 2 {\bf cm} \otimes 3 {\bf cm} = ( 2 \times 3 )\, ( {\bf cm} \otimes {\bf cm} ) \]
    \( {\bf cm} \otimes {\bf cm} \) には「cm2」が対応しており,「( 2 × 3 ) cm2」を得る。
    \(\otimes\) の文法に順うことが「公式」の適用になっているわけである。


    つぎに,速さの公式「距離÷時間」を考えてみる。
    「タテ×ヨコ」と違って,「量÷量」の式になっている。
    しかし,数の割り算が除数を逆数に替えて掛け算になるように,「距離÷時間」は,時間の双対「時間*」というものをとることで,「時間*\(\otimes\)距離」になる。

    2秒で6m の速さを求める。
    このとき「距離÷時間」を適用するわけであるが,この適用は,時間*\(\otimes\)距離 の要素 \( (2 {秒})^* \otimes 6 {\bf m}\) を \(\otimes\) の文法に順わせることである:
      \[ (2 {秒})^* \otimes 6 {\bf m} = 2^{-1} {秒}^* \otimes 6 {\bf m} = ( 2^{-1} \times 6 )\, ( {秒}^* \otimes {\bf m} ) \]
    \( {秒}^* \otimes {\bf m} \) には「m/秒」が対応しており,「(6÷2 ) m/秒」を得る。


    「タテ×ヨコ」「距離÷時間」は,二量が構成する公式である。
    では,3つ以上の量で構成される公式は,どう考えることで「テンソル」になるか。

    テンソル積 \( U \otimes V\) は,それ自体一個の線型空間である。
    よって,テンソル積はつぎのようにいくらでもつなげることができる:
      \[ V_1 \otimes V_2 \otimes V_3 \otimes \cdots \otimes V_n \]
    そして,3つ以上の量で構成される公式は,このようにつないだテンソル積に写すことができる。


    かくして,「テンソルは量の公式」となるわけである。