Up 線型変換の退化  


    線型変換f: E → E による E の像 Im(f) がどうなるかを,ここで問題にする。

    Im(f) がどうなるかを観察すると,つぎのことがわかる (実際,これは確かめられる):

      Im(f) は,原点を通る超平面 (部分線型空間) である。

    ここで,つぎの2つを区別する:
    1. Eの次元が減少 (もとの空間が潰れる)
    2. Eの次元を保持 (潰れない)
    Aを「退化」と呼び,Bを「非退化」と呼ぶ。

    Eの次元を n とするとき,退化にはつぎの場合がある:
      1次元減少
      2次元減少
      ‥‥
      nー2 次元減少 (原点を通る平面に潰れる)
      nー1 次元減少 (原点を通る直線に潰れる)
      n次元減少 (原点に潰れる)


    以上の観察から,つぎの問題を立てたくなる:

    1. f がどんな場合,退化か? (fがどんな場合,非退化か?)
    2. 退化で減少する次元は,何によって決まるか?

    この答えは,つぎのようになる:

    1. Eの基底 {u1, u2, ‥‥, un } に対し,f(u1), f(u2), ‥‥, f(un) が互いに1次独立なら,非退化。
    2. 互いに1次従属なものが k+1 個なら,k次元減少の退化。

    また,f の表現行列Aを使えば,つぎのように言い直すことができる:

    1. Aの行が互いに1次独立なら,非退化。
    2. 互いに1次従属なものが k+1 個なら,k次元減少の退化。


    ここで,Ker(f) の概念を,つぎの定義によって導入する:

      Ker(f) = f-1(0)

    Ker(f) は原点を通る超平面 (部分線型空間) になることが確かめられる。
    また,「非退化」が,Ker(f) を使ってつぎのように特徴づけられるようになる:

      Ker(f) = {0} (0次元) が,非退化の条件になる

     確認 : 退化とは,基底 {u1, u2, ‥‥, un } に対し,f(u1), f(u2), ‥‥, f(un) が互いに1次従属であること。
    すなわち,すべてが0ではない α1, α2, ‥‥, α で,
    f(u1) × α1 + f(u2) × α2 + ‥‥ + f(un) × αn = 0
    となるものがとれること。
    そしてこの相等関係は,つぎのことと同じ:
    a= u1 × α1 + u2 × α2 + ‥‥ + un × αn
    f(a) = 0
    よって,「0 と異なるEの要素で Ker(f) に属するものが存在する」が,退化の条件。
    言い換えると,Ker(f) = {0} が,非退化の条件。


    Im(f),Ker(f) のイメージをもつために,表現行列が


    の線型変換 f および Im(f),Ker(f) を作図してみる:


    この図を観察すると,つぎのように見えてくる:
      Ker(f):全空間Eを潰すのに使う超平面
      Im(f):全空間Eを潰した先の超平面

    さらに,3次元の場合で,このイメージを試されたい:
    • 全空間を原点を通る平面に潰す場合 (Ker(f) が1次元で Im(f) が2次元)
    • 全空間を原点を通る直線に潰す場合 (Ker(f) が2次元で Im(f) が1次元)
    • 全空間を原点に潰す場合 (Ker(f) が3次元で Im(f) が0次元)


    このイメージは,Ker(f) の次元と Im(f) の次元の和が Eの次元に等しいことを示唆している (実際,このことは確かめられる):

      dim( Ker(f) ) + dim( Im(f) ) = dim( E )