2.0 イントロ



 本章では,前章で概略的に触れた数/量の存在論にさらに立ち入って論考する。

 一般に,数学的主題に関接する存在論は本来数学教育で避けてはならないものである。これを閑却したりこれから逃げたりすることで,数学の本義が見えなくなる。

 数学には具体はない。数学と具体の関係は,《数学が具体に投企される》という言い回しで表現されるようなものである。この意味で,数学は道具である。そして,道具とそれが向かう素材とは存在的に区別されねばならない。これは具体から数学を形式として区別するということである。

 数学教育で“具体”を強調することは完全に正しい。しかし,“具体”を強調することと具体への安直な依拠を合理化することとは違う。“具体”の強調は,数学を具体から区別した上での具体の強調でなければならない(註)。そうでなければ,算数/数学科は生活科──生活の智恵(ノウハウ)の学習──になってしまう。



(註) “数/量”および“図形”の領域を通じ,《具体と形式の剔抉》は現行の指導の特に弱い部分である。