6.3 比,比の値



 (N,+,×) を,×が可換な数の系とする。

 (N,+,×) からの (NR,+,×) の導出の過程(§4.1)で,Nの要素に関する比の概念を導入した。

 いま,((N,+),(N,+,×),×) と同型な量の系 ((Q,+),(N,+,×),×) に対しても,《両者の間の同型対応によって,Nにおける比をQに写す》という形で,比を構成する。──具体的には,Qの単位uに対し,

×ξ1:u×η1=u×ξ2:u×η2 ξ1:η1=ξ2:η2


 x,y∈Qに対し,つぎの条件は同値(註)
  1. ×η=y×ξ

  2. あるw∈Qに対し,
    x:y=w×ξ:w×η
この条件が満たされるとき,“xとyの比はξ:η”とか,“xに対するyの比の値はη/ξ”,“xをもとにしたyの値はη/ξ",“xのη/ξ倍はy”などと言い表わす。

 なお,“比",“比の値",“割合",“分数倍”は,同じ形式の異なる受け止め方に過ぎない。いまの数指導は,これらを整理する必要がある。実際,形式の諸相を巡りながらも,形式そのものを直示することをしていない。子どもから“わかった!”と言われたら,教師はむしろ困惑すべきである。──“わかるべきことがらを示してはいないのに・・・・",と。



(註)
    (1) (2) :
    ×η=y×ξで,Qの単位uに対しx=u×α,y=u×βであるとする。このとき,u×α×η=u×β×ξであるが,これをwとすると,w×ξ:w×η=u×α×η×ξ:u×β×ξ×η=u×α:u×β=x:y。
    (2) (1) :
    x:y=w×ξ:w×ηであるとき,Qの単位uに対しx=u×α,y=u×β,w=u×γとすると,u×α:u×β=u×(γ×ξ):u×(γ×η)。このとき,α:β=(γ×ξ):(γ×η)=ξ:η。よって,x×η=u×(α×η)=u×(β×ξ)=y×ξ。