- 問題
わたしは3枚のカードを,トランプの要領で,背面をあなたに向けてもっている。
1枚には ○ が書いてあり,ほかの2枚には × が書いてある。
あなたは,このうちの1枚をつまむ。
それが〇なら,あなたの勝ちである。
しかしこれだけではつまらないので,ちょっと趣向を凝らす。
即ち,あなたに選ばれなかった2枚から,× のカードを1枚除く。
こうして2枚になった。
ここで,あなたは最初に選んだカードを別のカードに変えてもよい。
変えるのと変えないのとでもし勝率が違ってくるのなら,あなたは勝率の高い方を選ぶべきである。
さあどうする?
- 自然な思い
いまある2枚のカードは,○ と ×。変えても変えなくても,五分五分。
- 答え
変えた方が,○が当たりやすい。
実際,変えないで ○が当たる確率は 1/3,そして変えて○が当たる確率は 2/3。
- <自然な思い>は,どこを見過ごしているか?
- 最初に選んだカードが○である確率は 1/3,× である確率は 2/3。
- 最初に選んだカードが × のとき,カードを変えれば ○ になる。
- 答えの説明
最初に選んだカードは,○である確率が 1/3,そして × である確率が 2/3。
カードを変えるやり方では,最初に × をとったときが ○ になる。
よって,カードを変えることで ○になる確率が 2/3。
結局,カードを変えないことで○になる確率が1/3,カードを変えることで ○になる確率が 2/3。
カードを取り換える方が,○を当てやすい。
- 解説
確率問題を解く定石は,事象空間を書き出すこと。
しかし,パラドックスは,ひっかけ/盲点をじょうずにつくることでパラドックスになっている。
事象空間の書き出しは,ひっかけ/盲点を上手に退け,問題構造を還元する作業になるが,これがはじめからできるくらいなら,それはパラドックスでもなんでもないわけである。
実際,解答者は場面を直訳する格好で事象空間をつくろうとする。そして,間違う(註)。
「× のカードを除く」「カードを変える・変えない」は,事象空間の要素ではない。ここが要点である。
事象空間は,単につぎのものである:
そしてこの事象空間に対し,「変えないで○」──言い換え :「変えないで × (変えると○)」──の解釈を導入すると,つぎのようになる:
最初に選んだカード | 変えないで○ |
○ | YES |
×1 | NO |
×2 | NO |
言い換え:
最初に選んだカード | 変えると○ |
○ | NO |
×1 | YES |
×2 | YES |
3つの場合のうち,変えないで○になるのは1つ,変えると○になるのは2つである。
よって,変えないで○になる確率は 1/3 で,変えると○になる確率は 2/3。
註: |
即ち,事象空間をつぎのようにつくってしまう:
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最初に選んだカード |
除いたカード |
変える・変えない |
結果 |
○ |
×1 |
変えない |
○ |
変える |
×2 |
×2 |
変えない |
○ |
変える |
×1 |
×1 |
×2 |
変えない |
×1 |
変える |
○ |
×2 |
×1 |
変えない |
×2 |
変える |
○ |
|
そしてこれに従えば,「変えても変えなくても五分五分」という結論になる。
これの間違いはどこにある?
独立事象でないものを独立事象にして数えているところにある。
実際,この形式で事象空間をつくれるのは,ゲームのルールが「残りの2枚からxのカードを1枚除く」ではなく「残りの2枚から無作為にカードを1枚除く」の場合である:
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最初に選んだカード |
除いたカード |
変える・変えない |
結果 |
○ |
×1 |
変えない |
○ |
変える |
×2 |
×2 |
変えない |
○ |
変える |
×1 |
×1 |
○ |
変えない |
×1 |
変える |
×2 |
×2 |
変えない |
×1 |
変える |
○ |
×2 |
○ |
変えない |
×2 |
変える |
×1 |
×1 |
変えない |
×2 |
変える |
○ |
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