Up | English ベクトルの表現──“単位による測定”  


     ベクトル──実線型空間(D,)の要素,一般に体K上の線型空間(D,K)(註)の要素──の表現のアイデアは,“単位による測定”です。
     “長さ",“重さ",“容積",“時刻/時間",“速さ”のような量は,実アフィン空間と見なせます。“長さ”を例にして言うと,先ず長さ全体の集合Eを仮構します。二つの長さに対しては,日常語レベルで,一方の長さに対する他方の長さの差=変位(ベクトル)というものを対象化できます。そこでこの変位全体の集合Dを仮構します。このEDに対して,前節で述べた方法をそっくりそのまま用いて,実アフィン空間(E,D,)を構成できます。(但しこの場合には,Eの要素に対するDの要素の作用は,つねには定義されない──例えば,長さ〈3m〉に対する〈5m減〉の作用は定義されない。)
     長さのこの定式化では,足したり,実数倍ができるのは,長さそのものではなく,長さの差=変位(ベクトル)の方です。 特に,“単位による測定”はDの上の事態です。 即ち,Dの一つの要素u≠0 を“単位”の身分で固定し,xDに対しxu×ξとなるξを求めることが測定です (そして,ξが単位uに対するxの測定値ということになります)。
     ベクトルの表現のアイデアは,いま述べた意味での“単位による測定”です。 但しベクトル空間(D,K)一般の場合については,一つの“単位”で全てのベクトルが測られるというようにはなりません。 そこでわたしたちは“単位”および“単位による測定”の概念を拡張します。それが,“基底”および“基ベクトルの線型結合への展開”です。

      (註) 実数体上の線型空間としての実線型空間は,体K上の線型空間の概念に一般化されます。実際,線型空間(D,)の定義においては体としてのみ効いています。
       Dの要素が“ベクトル”と呼ばれるのに対し,Kの要素は,“スカラー”と呼ばれます。スカラーの身分は,ベクトルの“係数”です。