Up 非決定論 作成: 2018-05-04
更新: 2018-05-04


    物事の考え方には,決定論と非決定論がある。
    時速60km で車を走らせたら,3時間で 180km」は,決定論。
    時速60km で車を走らせたら,これこれのことがこれこれの確率で起こるので,3時間後はだいたいこんなふうかも」は,非決定論。

    数学は,答えが一つなので好き
    これは,「数学は決定論」を言っているわけである。

    非決定論は,ぐちゃぐちゃしている。
    ぐちゃぐちゃが嫌いな者は,決定論を「美しい」と言う。
    ところで,ひとは様々である。
    ぐちゃぐちゃが好きな者もいる。
    こっちは,決定論を味気なく感じ,非決定論に惹かれる。


    非決定論の数学ツールは,「統計・確率」である。
    「統計・確率」は,学校数学では生徒の好まない主題である。
    理由は,決定論に慣らされているからである。
    併せて,「統計・確率」が非決定論のツールであり,そして非決定論はおもしろいものだということを,教えてもらってないからである。

    尤も,これについては,しようがない面もある。
    おもしろい非決定論は,内容が難しいからである(註)


    数学が非決定論と係わることになるのは,物事を数学に抽象するときと,数学を物事に具象するときである。
    そしてここで,「統計・確率」の出番となる。

    こうして,「数理的」を方法とする学術分野では,「統計・確率」は基礎教養である。
    そして今日では,「数理的」が方法になっていない学術分野は,無い。
    これは,空気や水が好き嫌いを言うものではないように,「統計・確率」は好き嫌いを言うものではない──ふつうにからだに入れるもの──ということである。


    註. 例えば「統計力学」
      Wiener, N. : Cybernetics, 2nd edition. pp.37,38
    Thus Newton and Planck-Bohr formed, respectively, the thesis and antithesis of a Hegelian antinomy.
    The synthesis is the statistical theory discovered by Heisenberg in 1925, in which the statistical Newtonian dynamics of Gibbs is replaced by a statistical theory very similar to that of Newton and Gibbs for large-scale phenomena, but in which the complete collection of data for the present and the past is not sufficient to predict the future more than statistically.
    It is thus not too much to say that not only the Newtonian astronomy but even the Newtonian physics has become a picture of the average results of a statistical situation, and hence an account of an evolutionary process.
    This transition from a Newtonian, reversible time to a Gibbsian, irreversible time has had its philosophical echoes.
    Bergson emphasized the difference between the reversible time of physics, in which nothing new happens, and the irreversible time of evolution and biology, in which there is always something new.

    池原他 [訳]『サイバネティックス──動物と機械における制御と通信』, p.91.
    このようにしてニュートンとプランク-ボーアとは, それぞれへーゲルの二律背反における定立と反定立とをつくりあげたのである.
    これらに対する総合は. 1925年ハイゼンベルクによって発見された統計的な理論であるが, これはギブズの統計的なニュートン力学を, 巨視的現象に対するニュートンとギブズの力学にひじようによく似た統計理論でおきかえたものである.
    この理論によれば, 現在と過去のデータを完全に集めても, 未来は, 統計的にしか予測できないのである.
    したがってニュートンの天文学のみならずニュートン物理学までが, 統計的な状態を平均したものとLて描かれたこととなり, これもまた進化論に属することとなってしまったといってもいいすぎではない.
     ニュートンの可逆的時聞からギブズの非可逆的時間へのこのような変遷は, 哲学上の反響を呼びおこした.
    物理学の可逆的時間では新しいことが何も起らない.
    他方, 進化論や生物学の非可逆的時間では, たえず新しいことが起ってくる.
    ベルグソン(Bergson)はこのちがいを強調したのである.