Up 授業/教育の「改革」ムーブメントは,修業しない教員をつくる 作成: 2012-10-05
更新: 2012-10-20


    システムが現前するとは,システムに己を保つメカニズムがあり,これが働いているということである。
    そのメカニズムは,システム励起運動である。
    システムが現前するとは,それがシステム励起運動を続けられているということである。

    学校数学は,各種「改革」ムーブメントがシステム励起運動である。
    「システム励起」の内容は,教育関連機関および教育関連ビジネスにおける新たな仕事の創出であり,この意味での「経済効果」である。
    算数・数学科の授業は,これらムーブメントの中にある。

    「改革」ムーブメントは,「起動 → 活発 → 飽和/失敗 → 衰退 → 復旧」のライフサイクルを描く。 すなわち,つぎにように推移する: :
スローガンのパブリッシュ
学界・教育行政・教育現場・教育ビジネスが呼応
理論研究の活発化
授業実践の活発化
理論研究の展開
授業実践の展開
理論研究の領域・活動の飽和,運動に対する飽き
授業実践の失敗の顕在化
運動の衰退
復旧

    「復旧」は,ムーブメントが結果的に無駄であったことになる。 しかしこの「無駄」は,<系の生命活動>という視点から見ていくことになるものである。
    特に,「無駄から脱ける」タイプの批判は,自分が立っている地盤を否定する体(てい)であり,間違いである。
    現前のムーブメントに対して読むべきは,ムーブメントの意味である。 (そしてその論は,パラダイム論である。)


    「改革」ムーブメントは,これの生み出し方につぎの2タイプがある:
    1. <振り子運動>タイプ
    2. <再起動>タイプ


    a. <振り子運動>タイプ

      教育課程はおよそ10年ごとに改められるが,この「改革」ムーブメントは<振り子運動>タイプである:
        「改革」は,失敗模様をだんだんに現していく。
      失敗模様がはっきりしてきたところで,反対方向に転じる。
      しかしこの反対方向の「改革」も,失敗模様をだんだんに現すものになる。
      失敗模様がはっきりしてきたところで,反対方向に転じる。
      これを周期にして,行ったり来たりが繰り返される。

        例 : 「基礎・基本」と「ゆとり」の振り子運動
        「数学」と「数学」(「生活単元」) の振り子運動

      「改革」が失敗に至るのは,「改革」もこれの逆も,「どっこいどっこい」だからである。 一方を優位にすれば,矛盾を現すことになる。
      矛盾が,振り子運動のモーメントである。


    b. <再起動>タイプ

      学校数学の出口論には,主流を形成している出口論がある。
      すなわち,つぎのように見掛けを変えながら続いている出口論である:
        「数学的考え方」→「数学的問題解決」→「数学的リテラシー」
      この出口論は,「システム励起」の仕方が<再起動>タイプである。
      すなわち,同じ型のムーブメントを繰り返す。
      周期は,これまでの場合,およそ20年である。

      「同じ型のムーブメント」の意味は,この出口論が行為語「○○」(e.g.「コミュニケーション」) に対するつぎの論の展開を型にしているということである:

      1. ひとは,○○できる者でなければならない。
        みなを○○できる者にすることは,学校教育の仕事である。

      2. ○○できる者を実現する方法は,○○の行為をいろいろ・たくさん課すことである。
        各教科が,自分の領域でこれを行う。
        特に,算数科・数学科で,これを行う。

      3. 算数科・数学科で「○○の行為をいろいろ・たくさん課す」を実施するに際し,つぎのことを研究の形で明らかにしていかねばならない:
        1. 「○○」の意味・内容は? (概念分析研究)
        2. 「○○の行為をいろいろ・たくさん課す」の指導法は? (授業実践研究)



    <振り子運動>タイプは,一つおきに,同じムーブメントを繰り返す。
    <再起動>タイプは,連続して,同じムーブメントを繰り返す。
    同じムーブメントを繰り返すことができるのは,ムーブメントを担う者が必ず登場するからである。
    ムーブメントを担う者は,つぎの3タイプである:
    1. 「改革」を生業にしている者 (政治・ビジネス)
    2. 同じ「改革」が前にもありそしてそれが失敗していることを,忘却した者 (「懲りない者」)
    3. 同じ「改革」が前にもありそしてそれが失敗していることを,知らない者 (「若者・よそ者」)


    以上,算数・数学科の授業が各種「改革」ムーブメントの中に置かれているということを述べてきた。
    さて,この「改革」ムーブメントが,実に,修業しない教員をつくることに機能している。
    すなわち,修業は形(かた) を修業であり,授業の修業は「導入・展開・まとめ」の修業であるが,「改革」は教員にこれをさせない方に導く。
    どういうことか?

    「改革」の意義は「経済効果」にあると,先に述べた。
    経済効果は,常道の攪乱でつくられる。
    「導入・展開・まとめ」は,授業の常道である。
    常道の攪乱は,「導入・展開・まとめ」を自ずと却けるものになる。

    また,「改革」ムーブメントは,多くの教員を引き込めることが成功の形であるから,授業力の低さを隠蔽する授業法を提案するものになる。
    その授業法は,「導入・展開・まとめ」を自ずと却けるものになる。
    「改革」が示す授業法は,教員にとって,自分の授業力の低さを隠蔽してくれる都合のよいものであり,自分が「導入・展開・まとめ」を行なってきていないことを合理化してくれるものである。

     例 : ここに,「リテラシー」→「コミュニケーション」→「グループディスカッション」と導いていく「改革」ムーブメントがある。
    「グループディスカッション」は,授業力の低い教員にとって,ありがたいものになる。
    すなわち,本来なら「展開」のステージとして,考え方の対立をつくり出し,これらをたたかわせ,そして数学の考え方に収束させることが,授業者の仕事になる。
    授業力が低い教員は,これができない。
    「改革」は,この「展開」ステージを「グループディスカッション」に代えてくれる。