Up 誤答を,正反の反として活用  


    正反の反があって,正が理解される。
    ひとは,誤りとの対比において,正しさを理解する。
    一つのカテゴリーを理解するときは,反例の理解が伴わねばならない。

    そこで,教師は,生徒から誤答を呼び込むようにしなければならない。
    正答よりもむしろ誤答の方を歓迎するというスタンスが,ちょうどよい。

    生徒から「よい」誤答が出てこないときは,教師の方で「よい」誤答をつくり出す必要がある。 そして,生徒につぎのようにたずねる:
      これじゃダメなの?先生にはいいように思えるんだけど。
    生徒は混乱する。そして「考える」が始まる。それが正しくないことの理由を見つけようとする。良質な学習活動がここに起こっている。

    また,誤答は,つぎの意味からも大事にされねばならない:
      ひとは間違いから学習する。
      よって,間違うことによって成長する。


    誤答は,合理的なものである。
    特に,誤答は心理の問題ではない。
    自分の中で曖昧になっているもの,約束事をよく承知していないものに対し答えが求められれば,自分で理屈をつくり出して答える他ない,ということである

     註 :数学教育学では,誤答に対する認知心理学的なアプローチが一つの研究タイプとしてあるが,「合理的」のとらえにおいてたいてい勘違いしている。

    繰り返すが,誤答は合理的なものである。
    悪いもの・忌避すべきもののように誤答が扱われてはならない。
    誤答に対し忌避の姿勢を示すと,生徒が間違いを犯すことをおそれるようになる。これは最悪の事態である。
    一方,授業の初心者は,余裕がないことと,誤答の意義をとらえられないことが合わさって,誤答をやり過ごす方に向かいやすい:

      生徒が黒板に誤答を書いた。
      それをさっさと消して,正答を書いてくれそうな生徒をさがし出す。


    たくさん間違いたくさん誤答をつくるよう生徒に薦めること,これが教師のすべきことである。