Up 現行・学習指導要領 作成: 1998-10-25
更新: 2007-08-06


    学習指導要領は,鵜呑みにしないこと。

    学習指導要領をつくっているのは,所詮ヒトであり,時代の雰囲気/ブームや作成担当者の個性(<偏見>)が,決定的に作用している。 実際,過去を振り返ってみれば,指導方針が大きくぶれていることがわかる。──ほぼ20年周期で,実質陶冶 (「数学者有利」) と形式陶冶 (「教育学者有利」) の間で,振り子が揺れている。
    学習指導要領に対しては,「まゆつば」で付き合うというくらいの気持でいるのがよい。

      ちなみに,形式陶冶は本来<深い実質陶冶>を内容とするところのものである。
      実際,<形式>を身につける方法は,<実質>の修行の他にはない!
      ──「ゆとり=学習内容軽減」の形で現れる「形式陶冶」は,ほんとうではない。

    形式陶冶の立場は,「学習者本意」──「学習を強いる(=教える) のではなく自発的な学習を支援する」──のイデオロギーとも近接している。
    そこで,これが優勢の状況では,学校教員は教えることに罪悪感を持つようになる。

      教えることに罪悪感を持つようになった教員は,指導案の旧来のフレーム

           教師の働きかけ        生徒の反応    
           

      を悪しきものと感じ,つぎのように変えた:

            生徒の活動         教師の支援    
           

    また,行政側もこの時代風潮に対応して,「学習内容の精選」の名の下の,学習内容削減を打ち出してくる。


    しかし,学習内容削減は,
      学習内容を少なくして,そのかわり深く理解させ,真に学力をつける
    にはならない。理由は:

      ある一つのことAを理解するとは,
      Aに関わるといろいろなことと(Aでないもの,Aに類するもの,Aの在る風景,等々) をあわせて理解すること


    学習内容の削減は,「深い理解」「学力をつける」とはまったく逆のことをしていることになる。


    肝心な「学習内容を豊かにする」を損なってはならない。本来意を注ぐべきは,

      「学習内容を豊かにする」が,学習者の側での「暗記内容が増える」にならないようにする

    ことだ。これは,「勉強の仕方」の指導ということになる。

      ちなみに,薄い教科書ではなく分厚い教科書が正解。問題なのは,厚くなることを「覚えることが多くなる」と思わせる(根底には,「勉強=覚える」と思わせる)──そんな教育風土。


    学習指導要領の「学習内容の削減」でさらに困るのは,主題の本質を無視した転倒が行われることだ。
    例えば,平成10年12月14日告示の学習指導要領では,算数科に「線対称・点対称」がなくなって,中学校の内容になった。しかし,算数科の「二等辺三角形」,正多角形(「正三角形」「正方形」),「円」は,「対称な形」の主題である。( 対称)


    したがって,「数学教育を守る」というスタンスが,教員の側に必要になる。あるときは,確信犯的に学習指導要領を無視するということも必要になる。そして,適正なスタンスをとれるかどうかは,教員個々の「学校数学の主題を深く理解する精進・修行」にかかっている。

    学習指導要領/文科省