Up 要 旨  


    本節では,学校における数学科教育の規制要因 (数学科教育の<場>の要素) の一つとして,教育行政を取り上げる。

    数学科教育は,教育行政によって大きく変えられる。
    そして,数学科教育を大きく変えてしまうものは,教育行政が唯一のものである。

    教育行政は時代とともに揺れる。 実際,10年から20年の周期で,形式陶冶と実質陶冶を行ったり来たりする。
    この周期運動は,つぎの力学による:

      教育では,問題が起こる。
      この問題を解決しようとして施策を立てるが,これを思いつきレベルでやってしまう。
      教育は複雑系である。 害虫駆除が生態系の破壊になってしまうように,解決の施策と見えたものは,より大きな不具合を発生させて,失敗となる。
      そこで,回れ右。 ──形式陶冶に進んで失敗したときは,実質陶冶に反転。実質陶冶に進んで失敗したときは,形式陶冶に反転。
      そして,形式陶冶の方向でも実質陶冶の方向でも,行き過ぎて失敗する。
      しかし,<問題→施策→失敗→反転>は,世代忘却される。 そして,このプロセスがまた繰り返される。


    教育行政は,大きくブレる。 そして,教育現場がこのブレに過剰に共振する。

    教育現場には,行政の指示してきたことを過剰に遵守するという傾向がある。
    例えば,『学習指導要領』の改訂が示されると,「これに書かれていないことはやらない」という形の自己規制に進む。
    こうして,教育行政がある方向への舵の切り替えを示すと,教育現場はその方向をガチガチに固める。 失敗への道をただ進むしかない形がつくられる。


    数学科教育を大きく変えてしまうものは,教育行政が唯一のものである。 そしてこれの意味には,「教育行政が変えないものは,ずっと変わらない」が含まれる。
    例えば,「数と量」の内容は数学ではない。「関数」は近世の「関数」である。 しかし,これらはずっと変わらない。