Up 「<比例関係>と<量>の結合」の場合の「かけ算の順序」 作成: 2012-02-22
更新: 2012-02-24


    「1あたり量 × いくつ分」に対する「<比例関係>と<量>の結合」の解釈を示すには,準備が要る。
    先ず,これを行う。

    <液体の体積(かさ) と重さの関係>を例にする。
    この関係は,比例関係である。
    体積(系) と重さ(系) を,分数係数で考えよう。
    分数(系) を (N, +, ×) とし,体積(系),重さ(系) をそれぞれ ( (Q体積, ), ×, (N, +, ×) ), ( (Q重さ, ), ×, (N, +, ×) ) とする。 ──なお,この構造の普遍対象が,<量としての数>の ( (N, +), ×, (N, +, ×) ) である。

    「比例関係」は,数学では,「量の構造に関する準同型」ということになる。
    そして数学の表記にならえば,体積(系) と重さ(系) の間の比例関係全体の集合は,Hom( Q体積, Q重さ) と書かれる。

    Hom( Q体積, Q重さ) からは,量 ( (Hom( Q体積, Q重さ), ), ×, (N, +, ×) ) が導かれる。
    すなわち,× を,つぎのように定義するわけである:
    1. f, g ∈ Hom( Q体積, Q重さ) に対し,f g ∈ Hom( Q体積, Q重さ) をつぎのように定義する:
        (f g)( x ) = f( x ) g( x )  ( x ∈ Q体積 )
    2. f ∈ Hom( Q体積, Q重さ),n∈ N に対し,f × n ∈ Hom( Q体積, Q重さ) をつぎのように定義する:
        (f × n)( x ) = f( x ) × n  ( x ∈ Q体積 )

    こうして,比例関係は量になる。
    例えば,速度は時間と距離の比例関係であるが,これは量として足したり倍したりできるわけであり,実際,日常的にそうしている。

     註 : <数は量の抽象>は,「内包量」の特徴づけを「足せない」にする。 併せて,速度を内包量の一つににする。
    <数は量の抽象>の立場では,速度は足せない。


    以上で,「1あたり量 × いくつ分」に対する「<比例関係>と<量>の結合」の解釈を示す準備ができた。
    「1あたり量 × いくつ分」は,「×」の意味を,Hom( Q体積, Q重さ) × Q体積 の Q重さ への写像:
      ( f, x ) ├─→ f( x )  ( f ∈ Hom( Q体積, Q重さ),x ∈ Q体積 )
    に定めていることになる。
    すなわち,つぎを記号「×」の用法にしている:
      f × x = f( x )  ( f ∈ Hom( Q体積, Q重さ),x ∈ Q体積 )
    ちなみに,この「×」に対応する数学を求めるならば,「テンソル積」がこれにあたる。
    ( 「2個/皿 × 3皿 = 6個」の数学:テンソル積)

    「数の積は量の積の抽象」の意味は,<f × x に対し,数の積の式を立てる>である。
    これをどのようにしているか?

    文章題では,体積と重さの単位がたとえば cm3 と g で与えられ,そして f × x が「 2/5 g/cm3 × 4/3 cm3」のようになる。
    「数の積は量の積の抽象」の立場は,「 2/5 g/cm3 × 4/3 cm3」に対し直接「2/5 × 4/3」を立式することになる。
    ここには,明証は無い。

    これを明証する数学は,つぎのようになる:
「 2/5 g/cm3 × 4/3 cm3
= ( g/cm3 × 2/5 ) ( cm3 × 4/3 )
= ( g/cm3 ( cm3 × 4/3 ) ) × 2/5
= ( g/cm3 ( cm3 ) × 4/3 ) × 2/5
= g × ( 4/3 × 2/5 )
=「( 4/3 × 2/5 ) g」

    数直線」だと,つぎの手順の作図になる:

    ここで,「1あたり量 × いくつ分」での 2/5 と 4/3 の順序が,数の積の式では逆になった。

    「1あたり量 × いくつ分」の順序と積の式の2数の順序を同じにしたいならば,g/cm3 × 2/5 が比例関係であることを先に適用して,つぎの流れに替えることになる:
「 2/5 g/cm3 × 4/3 cm3
= ( g/cm3 × 2/5 ) ( cm3 × 4/3 )
= ( g/cm3 × 2/5 ) ( cm3× 4/3
= ( g/cm3 ( cm3 ) × 2/5 ) × 4/3
= g × ( 2/5 × 4/3 )
=「( 2/5 × 4/3 ) g」
    数直線」だと,つぎの手順の作図になる:

    このように,「<比例関係>と<量>の結合」の解釈を以て「1あたり量 × いくつ分」を立場とするときは,数の積の式での2数の順序が定まらない。
    「1あたり量 × いくつ分」を立場にすることは,「<比例関係>と<量>の結合」がこれの解釈である場合には,「かけ算に順序はない」を引き受けることなのである。