Up 割り算には等分除と包含除がある 作成: 1996-12-24
更新: 2004-09-29


    「数は量の抽象」は,実際のところ,自然数・個数で以て数・量を考える。
    「数は量の抽象」で「割り算には等分除と包含除がある」が言い出されるのは,自然数・個数で以て数・量を考えているからである。 実際,「割り算には等分除と包含除がある」は,自然数・個数のところでしか持ち堪えられない。

    自然数・個数で考えているにしても,どうして「割り算には等分除と包含除がある」となるのか?
    「数は量の抽象」では,自然数の割り算も「量計算の抽象」として意味づけなければならない。 そしてこれより,自然数の割り算に「等分除・包含除」の区別がつけられることになる。


    数学では,「割り算」とは記号「÷」の文法のことであり,そしてつぎが「÷」の文法である:


      註:特に,「÷」の定義には,つぎのことが含意されている:
        「× に関して,交換法則が成り立つ」
    実際,四元数では,× に関して交換法則が成り立たないので,「n÷m」は定義されない。


    さて,二つの式 m×□=n,□×m=n は,つぎの形式の中に現れる:


    自然数の場合,左の形式は「包含」の問題に適用できる:
      「12個では,3個一組のクラスがいくつできる?」
      「12人に対し,3人がけの椅子をいくつ用意すると全員すわれる?」

    そして,右の形式は「等分」の問題に適用できる:
      「12個を3つのクラスに分けると,一クラスは何個?」
      「12人が3つの長椅子に同じ人数だけ座ると,一つの長椅子には何人?」




    「n÷m」に「等分」と「包含」の二つの意味があるのではない。 ──つぎのようになる:

      「n÷m」の現れる形式に2種類ある。
      そして自然数の場合,この2つの形式の適用される問題が,それぞれ「等分」と「包含」になる。

    要点は,計算の道具と計算の対象の区別である。
    ところが,「数は量の抽象」論は,「計算の道具は計算の対象の抽象」論である。 そこで,「数は量の抽象」論では,「n÷m」に直接「等分」「包含」の2つの意味を考えてしまうことになる。


    学校数学での自然数の割り算の指導は,この「等分除と包含除」である。
    「12 ÷3」の意味は?と問われた生徒は,これが適用される等分ないし包含の問題を答えて,正解したことになる。
    「3/2 ÷ 4/5」の意味は?と問われると,もう答えられない。──正負の数や複素数の場合は,言わずもがな。
    そして,これは教員においても同じである。

    鳥瞰図 (「積・商の立式」のロジック)