Up 体系バラバラ主義の系譜──「一般陶冶」 作成: 2008-03-17
更新: 2008-03-17


    教科教育を巡る考え方の (伝統的な) 対立図として,「実質陶冶 -対- 形式陶冶」というのがある。
    「形式陶冶」は「一般形式の陶冶」(「一般陶冶」) の意味であって,この立場は体系バラバラ主義である。

    本論考では「形式陶冶/一般陶冶」のことばは用いない。 ひじょうに誤解を招く表現であるからだ。
    以下,これについて説明する。


    教育の目標は,専門的な力と融通の利く力の陶冶である。
    「実質陶冶 -対- 形式陶冶」は,「専門的な力の陶冶 -対- 融通の利く力の陶冶」のように受け取られるおそれがある。──事実は?
    「実質陶冶 -対- 形式陶冶」は,「 融通の利く力の陶冶」の方法論の対立である。

    すなわち,「実質陶冶」はつぎのように考える立場:

      専門的な力の陶冶が,融通の利く力の陶冶になる。
       しかも,融通の利く力の陶冶は,この形の他にはない。

    これに対し,「形式陶冶」の方はつぎのように考える:

      融通の利く力の陶冶は,
       一般形式 (=融通の利く形式) の直接指導の形になる。」

     註 : 体系バラバラ的な問題解決学習論に「ストラティジー指導」のアイデアがあるが,これは「一般形式の直接指導」である。


    「実質陶冶」で謂う「専門的な力の陶冶が,融通の利く力の陶冶になる」の考え方は,「転移 (transfer)」と呼ばれる。
    「実質陶冶」は,つぎの考え方をする:
      力は,深くなければ力でない。
      力が深くなければ,融通の利く力にはならない。
    よって特に,
      一般形式の直接指導では,なんの力も形成されない。


    なお,「実質陶冶 -対- 形式陶冶 (一般陶冶)」は,つぎの意味からもミス・リーディング (misleading) である:

      教育は,すべて形式の陶冶。
      形式は,すべて一般的。(一般的だから「形式」と呼ぶわけである。)