Up <数学>の固有領域画定の困難 作成: 2010-11-20
更新: 2010-11-20


    <数学>は,思いの外,地歩を確保することの困難な立場である。 すなわち,「これが<数学>だ!」を言うことが難しい。

    「数学的リテラシーをつける授業」として,授業をつくるとする。
    これは,現行の指導内容にはない新しい数学主題を加えるというものにはならない。 <数学>にならないからである。
    主題は,現行の内容から借りることになる。
    しかしここで授業を問題解決仕立てにつくると,「数学的問題解決」と区別が立たなくなる。
    そこで,この授業が「数学的リテラシーをつける授業」であることを理由づける形は,つぎのものになる:
    現行の内容になっている数学主題○○は,ひとが使うものになっていない。
    すなわち,現行の指導では,○○は使えるものにならない。
    そこで,○○が使えるものになる指導を考える。
    このような指導としてつくったのが,この授業である。

    しかし,この立論は困難である。
    先ず,「ひとが使うものになる」を示すことができない。 数学は,もともと,よく理解すればがよく使うことになるというものではないからである。
    つぎに,この授業が○○の指導としてよくできたものなら,これは「○○の本来の指導」に回収されてしまう。 「現行の○○の指導は不十分」になってしまうわけである。

    つくった授業が「数学的リテラシーをつける授業」であるためには,「○○の本来の指導」に回収されてはならない。 そこで,いきおい,現行を固定する物言いに進む。 つぎのように言うわけではないが,結局これを言っていることになる:
    「学校数学での○○の指導は,いまもこれからも現行の通りである。」
    しかし,つぎのことばが返ってくることは抑えられない:
    「この授業を,現行の○○の指導に組み入れればよいではないか。」
    これに対し
    「現行の○○の指導は,この授業を組み入れる時間的余裕がない。」
    を返せば,自ら墓穴を掘ることになる。この授業の実施も,現行の時間枠の中に組み入れることになるからである。