Up 内容の概略 作成: 2010-11-08
更新: 2010-11-10


    A. 本主題設定の理由

    数学を勉強して何の役に立つ?」の探求は,出口が何なのかわからず,出口をわかろうとするものである。
    一方,出口論主流は,出口がわかっていて,そこから出発するものである。
    方向性が逆になる。
    そこで,「出口論主流」の押さえが,「数学を勉強して何の役に立つ?」の論考の一章になる。


    B. 論旨

    「出口論主流」の現象がある:
      「数学的考え方」
      「数学的問題解決」
      「数学的リテラシー」

    出口論主流は,同じ一生を繰り返す。すなわち,同型を繰り返す。
    これはまた,<攪乱─復旧>の繰り返し。
<攪乱─復旧>のライフサイクル:
    同じことの繰り返しに対する「繰り返しから脱ける」タイプの批判は,間違い。

    出口論主流に対して読むべきは,<繰り返し>の意味。
    そしてその意味は,「系の生命活動」。


    C. 論の構成

    出口論主流は「系の生命活動」を担う。
    これの意味を,つぎの構成で論じていく:

    1. 出口論主流の意味・理由: 系の生命活動を担う
    2. 出口論主流の型・ライフサイクル
    3. 出口論主流は,しくみとしてよくできている。
      出口論主流の型・特徴は,<よいしくみ>の条件充足。
    4. 出口論主流のディレンマ: 生命活動=破壊活動
    5. この生命活動のモーメントは?


    D. 本論

    1 出口論主流の意味・理由: 系の生命活動を担う

    数学教育の営みが現前する。 この現前は,営みを創出するしくみがありこれが機能していることを含意する。
数学教育
系の生命活動
    出口論主流は,この「系の生命活動」を担っている。

    出口論主流が呼び出す系のバイオリズム・パターンは,<攪乱─復旧>。
<攪乱─復旧>のライフサイクル:
    そして,出口論交替で,これを繰り返す。


    2 出口論主流の型・ライフサイクル

    2.1 出口論主流の型

    出口論主流には,一定の型がある。
    それは,行為語「○○」(e.g.「コミュニケーション」) に対しつぎの論を展開するというものである:

    1. ひとは,○○できる者でなければならない。
      みなを○○できる者にすることは,学校教育の仕事である。

    2. ○○できる者を実現する方法は,○○の行為をいろいろ・たくさん課すことである。
      各教科が,自分の領域でこれを行う。
      特に,算数科・数学科で,これを行う。

    3. 算数科・数学科で「○○の行為をいろいろ・たくさん課す」を実施するに際し,
      つぎのことを研究の形で明らかにしていかねばならない:
      1. 「○○」の意味・内容は? (概念分析研究)
      2. 「○○の行為をいろいろ・たくさん課す」の指導法は? (授業実践研究)


    2.2 出口論主流のライフサイクル

    出口論主流がつくる<攪乱─復旧>のライフサイクルは,つぎのようになる:
出口論のパブリッシュ
学界・教育行政・教育現場・教育ビジネスが呼応
  概念分析研究・授業実践研究の開始
研究活動・授業実践活動の展開
飽き・復旧
新装の出口論の登場


    2.3 <飽き>の必然

    出口論主流のライフサイクルでの<復旧>のステージは,出口論主流が示す研究活動・授業実践活動に対する<飽き>のステージである。
    <飽き>は,必然である。

    先ず,授業での<飽き>。
    「数学で○○」の数学の授業は,成り立たない。
    数学の授業は,数学を教える授業になるのみである。

    「○○」をやろうとするときは,「○○」の科目を単体で立てることになる。
    (例:「道徳」の科目)


    そして,研究の<飽き>。
    これは,「出尽くす」というもの。
    表象主義は,研究の新天地をつくりやすいが,そのかわりすぐに埋まる。


    3 出口論主流は,しくみとしてよくできている

    3.1 <よくできたしくみ>

    出口論主流は,人の営みを創出するしくみとしてよくできている。

    一般に,人の営みを創出する<よくできたしくみ>は,つぎのようになっている:

    1. 営みが,人が容易に入っていけるものになっている。
    2. 営みが,長期間やっていけるものになっている。
    3. やがて終焉するが,また同じことの繰り返しが始まる。

    出口論主流もこのようである。
    即ち,出口論主流の型・特徴は,<人の営みを創出するよくできたしくみ>の条件充足の形である。
    このことを,順に見ていく。


    3.2 研究活動に<入りやすい>

    出口論主流が示す研究活動は,入りやすい。
    <入りやすい>の秘密は,表象主義にある。
    表象主義は,リアルとことばの写像論。
    能力の表現になることばを分類することが,能力の分析をやったことになる。

    「○○できる力」の標題を立てると,ことばの分類を内容とする研究行動が開始される。
    「広辞苑で○○をひくと ‥‥」の文言を論文でも見るが,これが表象主義。

    「数学的な考え方」「数学的問題解決ストラティジー」 は,表象主義でやっている。
    いま立ち上げられている「数学的リテラシー」も,同じことを繰り返すことになる。


    3.3 研究活動を<長期間やっていける>

    出口論主流 (表象主義) では,「人間陶冶」の意味が,「行為○○ができる力をつける」になる。 (「○○」は行為語。)
    そこで,「数学で○○を」が,授業実践課題の形になる。

    この課題は,無理な課題になる。
    よって逆に,<長期間やっていける>になる。



    3.4 研究活動で<前と同じことを繰り返せる>

    一つの出口論主流の終焉は,新しい出口論主流の開始である。
    そしてこれは,前と同じことの繰り返しになる。

    同じことの繰り返しを可能にしているものとして,つぎの3点を挙げる:

    • 同じ手法を使える
    • 世代忘却・主役交代
    • 標題効果


    3.4.1 「同じ手法」

    出口論主流は,一般的な能力語「○○」を立てる。
    これに,つぎのタイプの「研究」が続く:
    1. 概念分析研究:
        ○○の意味・内容は?
    2. 授業実践研究:
        概念分析研究から「○○」の要素行為となった「△△」に対し,
        <△△の行為をいろいろ・たくさん課す>の指導法は?
    これは,表象主義の手法である。


    3.4.2 世代忘却・主役交代

    「同じことの繰り返し」と思われてしまうと,「攪乱」にならない。
    しかしここで,世代忘却とか主役交代が効いてくる。


    3.4.3 標題効果

    標題で,「これまでにはなかった新しいもの」を演出できる。
    ただしこの演出が成功するためには,うまい標題がつくられる必要がある。
    この意味で,「ストラティジー」「リテラシー」 は,よくできた標題になっている。


    4 出口論主流のディレンマ:生命活動=破壊活動

    4.1 生命活動=破壊活動

    学校数学出口論主流は,数学教育の系の生命活動を担う。

    一般に,系の生命活動の形は<攪乱─復旧>の繰り返しであり,出口論主流の場合もこうなっている。
    ところで,攪乱は破壊である。
    出口論主流は,攪乱として破壊をやる。

    しかし,出口論主流の破壊性は生命活動そのものであるから,退けられない。
    (ディレンマ!)


    4.2 出口論主流の破壊性の内容

    出口論主流の破壊性とは,数学教育の常道を壊す(数学教育をおかしくする)というものである。
    そしてこれには,つぎのものがある:

    1. 「人間陶冶」がおかしく設定される
    2. 授業内容,指導法がおかしくなる
    3. 体系が壊される


    4.2.1 「人間陶冶」がおかしく設定される

    出口論主流の基本形は,こうである:
出口は,「○○できる人間」。
「○○」の中に,「数学を使う」がある。
学校数学は,「○○で数学を使う」人間をつくることが仕事。
    しかしこれは,ほんとうか?

    出口の相対化を試してみる:
      例:「徳の高い人間」
        「時代の流れに動じない・世事に流されない人間」

      これの方が当たっているのでは?

    また,数学 (学問) の精神も,「使う・使わない」で数学 (学問) をやっているわけではないというふうになる。

    実際,自分自身のことを考えてみても,「○○で数学を使う」をやっているという感じはしない。

    そして,発信源 (震源) には癖がある。
      例:アメリカ,OECD


    4.2.2 授業内容,指導法がおかしくなる

    出口論主流に応ずる授業実践は,授業の無数の要素のうちの一つ/数個に一辺倒,というふうになる。
    言い換えると,「数学教育は複雑系」を無視して,単純思考に入っていく。

    例えば,「コミュニケーション能力の育成」の授業実践がどのようになっているかを,見てみる。
    「コミュニケーション」は,グループ・ディスカッション (ディベイト) とグループ・プレゼンのことにされる。
    そしてこのとき,<独りの沈思黙考>が無くなり,<独りのことばにならないこだわり>が消される。
    すなわち,<数学>が消える。

    しかし,一辺倒は弊害ではなく,まさに求められていることである。
    実際,「一辺倒にならない」とは「普通をやる」ということである。 そして,出口論主流の役割・機能である「攪乱」は,普通を壊すことである。
    (ディレンマ!)


    4.2.3 体系が壊される

    出口論主流は,「数学で」を用いる。
    しかし,体系的な内容は,「数学で」がやりにくい。
    そこで,「数学で」をやりやすい内容を求め,「数学で」をやりやすい内容で再構成しようとする。

    生活単元の趣きのものに進んだり,「離散数学を!」の要望が出されたりする。

    もっとも,学校数学の体系が壊されるという事態は,これまで如実には起こっていない。
    専門数学が暗黙の抑止機能になっているとか,あるいは抑止機能として意識されているということなのか?


    5 出口論主流の生命活動のモーメントは?

    出口論主流に呼応する生命活動のモーメントは,学校現場にではなく,学術・教育行政の方にある。
    そしてそれは,成果主義である。
    「成果をつくらねばならない」立場にある学術・教育行政が,成果がつくられるようになるしくみを求め,自らつくるようになる。

    出口論主流の<攪乱─復旧>のサイクルは,最初は新天地が与えられ成果を出しやすいが,新天地がだんだんと埋まり成果を出せなくなっていく過程である。 (ここでは,周知の「パラダイム」論を単に述べている。)

<攪乱─復旧>サイクルは,成果づくりの<易─難>サイクル:

    学校現場は,<攪乱─復旧>のサイクルを必要としない。
    なぜなら,生徒は一期一会。
    <攪乱─復旧>のサイクルのどこに出会うかで生徒に当たり外れが出てくるという事態は,学校現場の望むものではない。

    しかし,成果主義もまた「系の生命活動」の内容である。
    どうこうできるものではない。


    6 結論

    出口論主流は,数学教育の系の生命活動を担う。
数学教育
系の生命活動
    この生命活動のモーメントは,学術・教育行政の成果主義。

    生命活動は破壊活動。
    生命活動である破壊活動は退けられない。
    出口論主流の破壊性は,根源的なものであるから,退けられない。(ディレンマ!)