Up 「ペリー運動」 作成: 2013-06-22
更新: 2013-07-02


    ペリー運動 (「数学教育改造運動」) で批判されているのは,当時のイギリスの中等教育におけるユークリッド原論中心の数学教育である。 この数学教育は,「精神陶冶・教養・文化」で合理化されていた。

    「ユークリッド原論中心の数学教育」は「純粋数学を教える数学教育」とまとめることができる。 そこで,この場合の「学校数学の勉強は何のため?」は,
      「生徒は純粋数学を勉強する;生徒は精神・教養を身につける」
    「生徒は純粋数学を勉強する;生徒は精神・教養を身につける;社会は精神・教養・文化を得る」
    であり,「xはX1 を勉強する; xはX2 を身につける; xはX3 を行動する; yはYを得る」のうち「xはX3 を行動する」を欠くものになる。

    ペリー運動は,ユークリッド原論からの脱却として,以下を主張する (中原, 2000, p.30):
    1. 近代社会の要請に応え、有用性のある数学教育とする。
    2. 融合主義、合科主義をとる。
    3. 生徒の心理的発達に適応する。
    4. 実験・実測を取り入れる。
    5. 関数概念を重視、グラフ教材を強化する。
    6. 空間概念、立体幾何を重視する。
    7. 微積分を平易化して導入する。
    これは,
      「生徒は有用数学を勉強する;生徒は有用数学を身につける;生徒は数学を実用する」
    「生徒は有用数学を勉強する;生徒は有用数学を身につける;生徒は数学を実用する;社会は数学を実用する」
    であり,類型
      「xはX1 を勉強する; xはX2 を身につける; xはX3 を行動する
    「xはX1 を勉強する; xはX2 を身につける; xはX3 を行動する; yはYを得る」
    になる。

    この類型化は,ペリー運動を簡約し過ぎているというものではない。
    「有用数学」をテーゼにすることは,つぎの問題をもつことである:
      有用数学とは何か?
      有用数学の指導はどういうものになるか?
    そしてこのとき,ペリー運動の内容は上記の1〜7のように膨らむわけである。


    なお,誤解のないよう強調するが,John Perry は,数学教育に「一般陶冶」を合わせて見る者である (「自ら学ぶ力」「論理的思考力」「精神陶冶」)。 ──実際,数学教育に関接する者なら,自身の実感から,数学教育に「一般陶冶」を認めずにはおれない。
    ただし Perry の場合の「一般陶冶」は,つぎのように括ることになる:
      「生徒は有用数学を勉強する;生徒は一般形式を身につける」
      「生徒は有用数学を勉強する;生徒は一般形式を身につける;社会は一般形式を得る」


    参考文献
    小倉金之助 (1974) : 小倉金之助著作集 第6巻 「数学教育の歴史」, 勁草書房
    中原忠男 (2000) : 算数・数学教育の目標・目的, 日本数学教育学会誌・第82 巻・第7・8号(特集号)
    中原忠男 (2000) : 近代化運動・改良運動, 中原忠男(編).算数・数学科重要用語300 の基礎知識, 明治図書
    津山三郎 (1938) : ペリー、ムーア、クラインの講演, 津山三郎ら(編), 増田兄弟活版所
    ペリー・ムーア、鍋島信太郎訳『数学教育論』岩波文庫、1936
    ペリー・クライン, 丸山哲郎訳『数学教育改革論』明治図書、1972