Up 「土壌」 作成: 2015-11-17
更新: 2015-11-17


    「数学教育」と「商品作物栽培」の同型では,教員・授業・教室・学校・地域等が「土壌」に対応する。
    「教育改善」は「土壌改良」 に対応する。

    「教育改善」と「土壌改良」の同型を立てることのメリットは,「土壌改良」では「弊害」が主題になるということである。
    「教育」には,「教育改善」の「弊害」を主題にする文化がない。
    「教育改善」のムーブメントは,威勢よく立ち上げられ,うやむやに消えるのが常である。

    「教育改善」のムーブメントの「うやむやに消える」は,「ムーブメントが最初から無かったのと同じ」を意味しない。
    このムーブメントは,「弊害」を残している。
    ムーブメントによる「不良作物」の産出は,短期的弊害であって,これはわりあい見える。
    一方,ムーブメントは「土壌」や生態系への影響という形での長期的弊害を残していて,これは見えない。


    「改良」ムーブメントの弊害は,ムーブメントが短期回収型であることに因る。
    人が立てるムーブメントは,つねに短期回収型である。
    なぜか。
    人は,自分の生業の波長に,ムーブメントを合わせる。
    人の生業は短期回収型なので,ムーブメントは短期回収型になる。

    「教育改善」と「土壌改良」の同型は,短期回収型「教育改善」と短期回収型「土壌改良」の同型を含蓄する。
    短期回収型「教育改善」と短期回収型「土壌改良」の同型は,短期回収型「教育改善」が成らない理由と短期回収型「土壌改良」が成らない理由の同型を含蓄する。

    《短期回収型「土壌改良」は成らない》は,つぎのものである:
    1. 土壌複雑系は,「土壌改良」の攪乱に対し自己調整機序を起動し,新たな平衡状態をつくる。 このプロセスは長期間にわたる。
    2. 新たな平衡状態は,はじめに立てた「土壌改良」の内容にはならない。

    そして,土壌の「複雑」の内容は,つぎのものである:
    1. 土壌は,長い時間をかけて生成されたものである。
      生成でできているものは,要素/部分の置換が効かない。
    2. 土壌は,様々な要素のネットワークである。
      ネットワークになっているものは,要素/部分の置換が効かない。


    「改良」の対象は,複雑系である。
    複雑系に対し人が行う「改良」は,「単純思考の思いつき」の域を出ない。
    この「改良」は,「弊害」の面が大きくなる。

    実際,農業の「改良」は「商品経済にしっかり乗せる」であるが,これは「土壌荒廃」のような弊害をいろいろ生む。
    「農業複雑系」「農業生態系」の概念化は,「改良」の単純思考性に対する反省からである。

    数学教育学も,数学教育生態学として,同様の契機によるものと見なせる。
    「数学教育学」は,「改良」の提案を生業にする。
    「改良」は,つねに弊害と表裏である。
    しかし,「改良」の提案は,弊害を見てしまってはできない。
    「改良」の提案は,弊害を見ない単純思考でつくられる。
    そして,これは是非も無いことである。
    「数学教育学」を生業うとは,これを行うことだからである。
    「改良」の弊害を主題にする視座は,「是非も無し」の視座であり,それは科学である。
    こうして,数学教育学となる。