Up 皆伐 作成: 2015-12-01
更新: 2015-12-01


    戦後の復興期に,「国土緑化」が政策になった。
    復興で木材の需要が高まる。
    この需要に応えられる木材供給は,どんな造林方法で実現できるか。
    ここで採られた方法が,「皆伐」(大面積皆伐人工造林) である。
    即ち,森林に「針葉樹林=経済林,広葉樹林=不経済林」の価値づけを施し,森林を皆伐して針葉樹を植える。
    これを,「国土緑化」として行った。

    皆伐の発想は,畑作である。
    畑作は,「耕起し,種/苗を植え,施肥・除草・防疫の手入れをし,収穫する」である。
    これで当然うまくいくと思った。
    「緑化運動」は意気揚々の気運で開始される。

    この運動は,時間が経つほどに,「森林破壊」の側面が顕著になる。
    造林は,畑作とは桁違いに複雑である。
    「手入れ」にしても,まともな手入れなど端からできないことである。
    さらに,こっちの方が安くつくということで,海外から木材が輸入されるようになる。 民間だと森林経営は採算の合わないものになり,森林は放置されていく。
    この結果が,「森林破壊」である。


    「数学教育学」は,「数学教育」の「生産向上プロジェクト」をつくることを役割にしている。
    このとき,「数学教育学」の考え方は,「皆伐」である。
    国単位,地域単位のそれぞれで,「数学教育」を,その時よいと思った方法で統一,画一化しようとする。

    「皆伐」は,プロジェクトの自然な考え方である。
    実際,プロジェクトは「皆伐」を行うものである:
      プロジェクトは,<よいもの>の実現プロジェクトである。
      はじめに,「これがよい」を定める。
      「これがよい」の思いは,つぎの思いである:
        このよいものは,皆に広まるべきだ
        このよいものは,皆がこれに合わせるべきだ
      即ち,射程には「皆」が入る。
      射程を「皆」に及ぼすのは,「皆伐」である。


    「皆伐」は,よいこととして行われる。
    しかし,「国土緑化」の皆伐が「森林破壊」になるように,「皆伐」は失敗する。
    失敗するのは,対象になっている系が複雑系だからである。
    「複雑」であるとは,思いも寄らぬことが様々に起きるということである。
    プロジェクトは,これらを難題として負い,その重さで潰れる。

    「皆伐」は失敗する。
    しかし,「国土緑化」の場合のように長い時間をかけて失敗が明らかになる系では,プロジェクトは問題をうやむやにして姿を消すふうになる。
    「数学教育学」の企画になるプロジェクトは,「問題をうやむやにして姿を消す」が特段に容易になる。
    即ち,人の成長が内容だと,プロジェクトによって何が実際に引き起こされているのか,わからない。 したがって,成功も失敗も言えない。

    「数学教育」のプロジェクトには,結果がない。
    結果がないから,結果責任もない。
    「数学教育」のプロジェクトには,失敗がない。
    失敗がないから,《自分がよいと思うものは,皆にとってよいものだ》でやっていける。