Up 「生態系」: 要旨 作成: 2016-01-17
更新: 2016-01-17


    数学教育学は,数学教育生態学として立つ。
    そこで,「生態系」「系」の一般的捉えを,課題にもつ。

    「系」は,わかったようで実はわからないものである。
    そこで,「系」ということばを使った途端,思考停止になる。
    このことに余程の注意を要する。


    「系」がわかるようになる方法は,分析ではない。
    分析は,どつぼにはまる道である。
    「系」は,分析に馴染まない概念である。

    「系」がわかるようになる方法は,「比較」である。
    いろいろな系を比較し,そこに通底するものが見えてくるとき,それが「系」である。
    この通底するものは,ことばにならない。
    ことばにしようとするのは,分析と同じで,どつぼにはまる道である。
    「系」は,ことばに馴染まない概念である。

    わたしの場合は,「系」のイメージに「絵図」を用いる。
    「絵図」は,できるだけシンプルで,しかも「系」の含蓄を保てるものがよい。
    いまは,「ムクドリの集団飛行」に「ウロボロス」を重ねる絵図を用いている:

ムクドリの集団飛行

これの時々刻々の変化を,「ウロボロス」に見る。
即ち,時々刻々の変化を「時間tを変数とする状態S(t)」で考えたとき,「S(tn) を S(tn+1) が飲み込む」と見る。
ゆったりと飲み込むのではなく,瞬時の飲み込みが繰り返されるというイメージである。

    この絵図は,一応,マトゥラーナ&バレーラの「オートポイエーシス」には当てはまるものになっている:
     
    (i) オートポイエティック・マシンは自律的である。
    それがどのように形態を変えようとも,オートポイエティック・マシンはあるゆる変化をその有機構成の維持へと統御する。‥‥
    (ii) オートポイエティック・マシンは個体性をもつ。
    すなわち絶えず産出を行い有機構成を普遍に保つことによって,観察者との相互作用とは無関係に,オートポイエティック・マシンは同一性を保持する。‥‥
    (iii) オートポイエティック・マシンは,特定のオートポイエティックな有機構成をもっているので,そしてまさにそのことによって,単位体を成している。
    オートポイエティック・マシンの作動が,自己産出のプロセスのなかでみずからの境界を決定する。
    (iv) オートポイエティック・マシンには入力も出力もない。
    オートポイエティック・マシンとは無関係な出来事によって攪乱が生じることがあるが,このような攪乱を補う構造変化が内的に働く。 ‥‥これらの変化は,オートポイエティック・マシンを規定する条件である有機構成の維持につねに従属している。‥‥
    (『オートポイエーシス ― 生命システムとは何か』, 河本英夫訳 1991)