『論究』のダイナミクス 作成: 2016-03-06
更新: 2016-03-07


    現前の「数学教育学」は,数学教育から離れて自閉するものになっている。
    《学校数学をどうする》論文の衰退は,枠組論に終始することば遊びの論文が「数学教育学の論文」を意味するものになったことの裏返しである。
    そして,この「ことば遊び論文の席巻」現象に,『論究』が一役買うことになってしまった。


    ことば遊びの論文は,載るとしたら『論究』である。
    数学教育から離れて自閉するようになった現前の「数学教育学」は,論文掲載の場を『論究』に求める。
    そこで,この求めに応ずるふうに『論究』も変わっていく。

    『論究』のこの変質では,つぎのダイナミクスが大きく寄与することになった。
    時代は,数学教育学の生業を,"publish or perish" にした。
    学会の論文発表大会は,発表論文数が増加するようになる。 (これには,学生会員の論文発表数の増加が含まれる。)
    学会執行部は,論文の「厳選」で,これに対応しようとした。
    査読制を導入し,「合格論文」を大会臨時号『論究』に掲載するとした。

    しかしこの対応は,つぎのように,「数学教育学」が数学教育から離れて自閉する傾向をさらに進めることになった。
    "publish or perish" の "publish" は,査読制をとっている学術誌に掲載されることである。
    "publish" の評価は,「査読論文の本数」である。
    そこで, "publish" の評価においては,『論究』も大会臨時号『論究』も同じである。
    『論究』に掲載される論文は,年に1,2本である。
    一方,大会臨時号『論究』に載ることになる「合格論文」の本数は,20は下らないといったふうになる。
    ここに『論究』は,一挙にハードルの低いものになった。

    「合格」論文の本数が20は下らないといったふうになるのは,どうしてか?
    大会発表論文の選定は,論文の大量・一括処理になる。
    論文の大量・一括処理の査読は,自ずと,「ほかの査読作業とのバランス」を考えることになる。
    査読者は,「ことば遊びの論文をつくる者同士」として,論文投稿者に相対する。
    この査読は,減点方式になる。
    そしてこの場合,「減点のしようがない論文」が存在することになる。

    「減点のしようがない」とは,「行儀が良い」ということである。
    「行儀が良い論文」が「合格論文」になる。
    「ことば遊び」に「行儀が良い」が重畳し,これが論文の「合格」の形になる。

    『論究』のハードルが低くなり,「行儀が良い論文をつくる」が合格論文をつくるコツだとわかるとき,「ことば遊びの論文」がいよいよ論文の確実・安心な形になる。
    「ことば遊びの論文」は,棲み家を『論究』に得て,「数学教育学」の論文型になる。
    そして,《「ことば遊びの論文」が「数学教育学」の論文型になる》は,《「数学教育学」が数学教育から離れて自閉する》である。