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松浦誠 (1988), pp.107,108
一般にスズメバチのような大型の巣をつくり、たくさんの幼虫を育てている昆虫が都市に適応して生活できるかどうかは、餌となる食物の資源量と営巣場所の有無、すなわち食と住が問題となる。
[キイロスズメバチとコガタスズメバチの場合]
食に関してこの両種はハエ、アブ、セミ、トンボ、小型のコガネムシ、ガの幼虫である青虫や毛虫などたいていの昆虫やクモを狩って幼虫に与えている。
これだけの融通性があれば、都市でも緑の多い環境なら、餌の調達は可能であろう。
この点、コガタスズメバチは行動半径が巣から普通は1キロ以内なので、市街地化が進み緑の環境が少なくなると未開発地へ退行を余儀なくされるだろう。
ただし、このスズメバチは営巣規模が小さいのでそれほどたくさんの餌を必要としないから、営巣場所となる生け垣や庭木などがたくさんあるような住宅地ではじゅうぶんにやっていける。
小まわりがきくといえるだろう。
これにたいして、キイロスズメバチは営巣規模が格段に大きい。
直径 40〜80センチ、高さ 60〜90センチという巨大な巣を軒下などにぶら下げるのだ。
住宅地は営巣場所となる人家などには事欠かない。
しかし、幼虫の餌として多量の昆虫やクモを必要とするため、巣のまわりだけではとてもまかないきれない。
そこで、数キロに及ぶ行動半径によって、住宅地に営巣したとしても近くに未開発の山野などがあれば、そこへ出かけて食物を調達することができる。
すなわち、コガタスズメバチは「食・住近接」が宿命であるが、キイロスズメバチは「食・住分離」でもやっていけるわけである。
[他の種の場合]
‥‥‥ 他の種にとって、都市環境では食料確保がまず困難である。
たとえば、オオスズメバチは八月前半まではカミキリムシ、ドウガネブイブイなどの甲虫類やスズメガの幼虫など筋肉質の多い大型見虫を主食とする。
これらの昆虫は、都市では巨大なスズメバチの巣を支えるほど数は多くない。
八月以後になると、他のスズメバチなどの巣を集団で攻撃するという特異な食性をもつが、それまでに餌不足でやっていけないだろう。
また、モンスズメバチはセミが主食であるし、ヒメスズメバチにいたってはアシナガバチの巣を襲ってその子供の体液しか食べない。
いずれも都市環境下では食料調達が困難なことはあきらかであろう。
「住」の点でも、オオスズメバチはネズミやモグラの穴など土中の空間に巣をつくるので、住宅地ではまず巣づくりは無理であろう。
一方、モンスズメバチとヒメスズメバチは人家の屋根裏や土中などの閉鎖空間であれば巣をつくるので、都市の近郊でも彼らの食料調達のできる環境であれば営巣も可能である。
実際、地方によってはキイロスズメバチやコガタスズメバチほどではないにしても、この二種のスズメバチが見られることもある。
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- 引用文献
- 松浦誠 (1988) :『スズメバチはなぜ刺すか』, 北海道大学図書刊行会, 1988.
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