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松浦誠 (1988), pp.106,107
共通点としては、
(1) |
幼虫の餌として各種の昆虫、クモなどの幼虫や成虫を狩る「何でも屋」、
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(2) |
晩春から初冬まで営巣をつづける「長期営巣種」、
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(3) |
新女王の産出のピークは 10月 (北海道では9月)、
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(4) |
新女王の越冬場所は朽ち木内が多い、
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(5) |
北海道から九州まで各地に分布し幅広い気候適応をもつ、
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などである。
一方、生態的に異なる点は、
(1) |
営巣規模 (育房数、働きバチ・オス・新女王の生産数など) でコガタはキイロの約10分の1、
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(2) |
営巣場所はキイロは人家などの建造物、コガタは生け垣や木の枝で、前者は真夏に巣の引越しをすることが多いが、コガタはしない、
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(3) |
働きバチの攻撃性はキイロは強いがコガタは弱い
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(4) |
働きバチの寿命はキイロが短く、平均ではコガタの約2分の1 (約13日)、
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(5) |
働きバチが餌集めに飛びまわる距離はキイロが
1〜5キロ、コガタは1キロ以内、
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(6) |
働きバチの活動は
キイロは不眠不休型 (夜は飛ばないが巣内で育房つくり)、
コガタは有休多憩型 (朝夕に活動ピーク,夜はほとんど巣内で休止)、
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などとなっている。
食に関してこの両種はハエ、アブ、セミ、トンボ、小型のコガネムシ、ガの幼虫である青虫や毛虫などたいていの昆虫やクモを狩って幼虫に与えている。
これだけの融通性があれば、都市でも緑の多い環境なら、餌の調達は可能であろう。
この点、コガタスズメバチは行動半径が巣から普通は1キロ以内なので、市街地化が進み緑の環境が少なくなると未開発地へ退行を余儀なくされるだろう。
ただし、このスズメバチは営巣規模が小さいのでそれほどたくさんの餌を必要としないから、営巣場所となる生け垣や庭木などがたくさんあるような住宅地ではじゅうぶんにやっていける。
小まわりがきくといえるだろう。
これにたいして、キイロスズメバチは営巣規模が格段に大きい。直径 40〜80センチ、高さ 60〜90センチという巨大な巣を軒下などにぶら下げるのだ。
住宅地は営巣場所となる人家などには事欠かない。しかし、幼虫の餌として多量の昆虫やクモを必要とするため、巣のまわりだけではとてもまかないきれない。
そこで、数キロに及ぶ行動半径によって、住宅地に営巣したとしても近くに未開発の山野などがあれば、そこへ出かけて食物を調達することができる。
すなわち、コガタスズメバチは「食・住近接」が宿命であるが、キイロスズメバチは「食・住分離」でもやっていけるわけである。
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- 引用文献
- 松浦誠 (1988) :『スズメバチはなぜ刺すか』, 北海道大学図書刊行会, 1988.
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