Up | 決定論ゲーム | 作成: 2019-08-08 更新: 2019-08-10 |
考古学は,過去の痕跡をどれだけ見つけられるかにかかっている。 考古学の中心は,フィールドワークである。 地球のフィールドワークは,いまはどの地にも行くことができる。 しかし,宇宙の場合は,どこも遠すぎて行くことができない。 フィールドワークが成り立たないわけである。 そこで,宇宙の歴史を考えようとすると,できることは推理しかない。 天文学で得られているデータをヒントにして,数学計算が推理になるような理論をつくる。 これは,宇宙の歴史を決定論でやるということである。 このことは,奇妙なことと思わねばならない。 実際,地球の歴史を決定論でやると言えば,嗤うだろう。 しかし,宇宙はひとにとって神秘なものなので,奇妙なことが考えられてもそんなものかと思ってしまうのである。 しかも,決定論──《存在は法則が現れたもの》──は,西洋的な考え方ではおなじみのものである。 即ち,プラトニズム。 いまの宇宙論は「ビッグバン」をパラダイムにするようになっているが,これは決定論的宇宙論である。 「ビッグバン」パラダイムは,宇宙の始まりを定め,宇宙のいまを導こうとするものである。 決定論者とは,「法則の含蓄 implication」の形・内容に思考停止する者たちのことである。 実際,彼らは生物のような領分も彼らの考える<法則>の含蓄になると想う者であるが,それはつぎの類の考えを引き受けることなのである:
或る時或る地に降る雪の互いに異なる結晶の形は,予定されていたものである。 明日現出する森羅万象は,決定されている。 この決定論が法則とするものは,一つに「一般相対性理論」である。 アインシュタイン方程式の解を求め,見つけてはこれに解釈をつけていく。 もう一つは,量子力学である。 宇宙の始まりの論は,量子力学オーダーの存在論で始まることになり,そこは一般相対性理論の適用できないものになる。 その量子力学の核心は,「不確定性原理」である。 「ビッグバン」パラダイムは,不確定性原理と一般相対性理論をつなぐという内容になる。 しかもこれを決定論の形に整えようというわけである。 不確定性も決定論のうちに埋め込もうとするわけであるから,つくられる理論は奇妙きてれつなものになる。 「多世界解釈」はこの類である。
歴史は不確定性の累積だが,この場合それは「多世界の累積」の意味になる。 はて,多世界論者はいったいどのくらいの数で「多世界」をイメージしていることやら。 「ビッグバン」論の奇妙きてれつをあげつらえば,「それならなぜビッグバンパラダイムの邑からノーベル賞受賞者が輩出されるのか」と思うだろう。 しかしそれは,邑から受賞者選考委員を出せば成ることである。 本当を見つけたから受賞したというのではない。
難しい内容の場合は,権威とマスメディアが「本当」として発信するもののことではある。 |