Up 中国の食糧事情 作成: 2023-03-31
更新: 2023-03-31


    ひとは,日本の食糧自給率の低さに危機感をもつ。
    そして,政治が悪いのだと思う。

    食糧自給率が低い理由は簡単で,食糧生産の仕事に就こうとする者がいないからである。
    食糧生産の仕事に就こうとする者がいない理由は,日本の食糧自給率の低さに危機感をもっているあなた自身のことをを考えればわかる。
    危機感をもっているが,食糧生産の仕事を他人事(ひとごと)にしているわけである。
    自分では食糧生産の仕事に就こうとは思わない。

    なぜ?
    先立つ物が無い。
    食糧生産の知識・能力が無い。
    仕事の内容がたいへんそうなので,やりたくない。
    そして,以上をクリアしたとしても,食糧生産で生業を立てることはできない。

    食糧生産で生業を立てることができないとは,どういうことか?
    輸入食糧の価格に太刀打ちできない,ということである。
    輸入食料の価格がますます上がっているとはいっても,国内で生産するよりは安いのである。


    日本の食糧自給率の低さに危機感をもつあなたは,「国が支援することで,高コスト生産でも成り立つようにすればよいではないか」と思う。
    あなたの思っていることは,「食糧生産の公務員をつくる」と同じである。
    そしてこれがダメなことは,やってみなくともわかる。
    即ち,「非効率・無駄」の誹りをたちまち受けることになり,すぐに取りやめとなることが,やってみなくともわかる。


    中国は,人口の多さから,食糧自給率の低下が世界の中でいちばん深刻な問題になろうとしている国である。
    食糧自給率の低下の理由は,上に述べたのと同じである。
    生活が豊かになることは,自給食糧の価格が上がり,輸入物に太刀打ち出来なくなることなのである。

      物の価格は,労働力価格に応じる。
      輸入物が安いとは,輸出国の労働力価格が安いということである。
      自給物が高いとは,自国の労働力価格が高いということである。

    ここであなたは,「中国は共産党独裁国家だから,食糧生産に国民を動員すればよいではないか」と思ったかも知れない。
    しかし,そうはならない。
    国民は既に自分の生活を持っている。
    それを止めさせて食糧生産に動員するのは,強制である。
    そしてこれが,夥しい惨劇の始まりになる。

    実際,中国は過去にこれをやったことがある。
    「大躍進」と「文化大革命」である。
    ともに,死屍累累の惨憺たる結果に終わった。

    中国政府は,これがわかっている。
    中国独裁政権は国民をビビらせているように見えるが,それは独裁政権が国民にビビっていることの裏返しである。
    食糧自給率の低下は,食糧の輸入量の増加で埋めていくしかない。
    こうして中国は,食糧を安定的に取ってこれる国・地域の獲得・確保に必死になる。
    これが,中国の拡張主義の中身である。


    しかし結論を言えば,これは間に合わない。
    中国は,図体が大き過ぎるのである。
    食糧輸入国間の食糧分捕り合戦が熾烈になるばかりではない。
    中国に食糧を輸出する国では,自国民が食糧に困るという事態になる。(生産者・商人は,高く売れる方に売る。)

    そして,ひとはあまり考えないが,漁業と同じく農業も無尽ではないのである。
    「乱獲」は農業にも当てはまる。
    乱獲は,土壌をボロボロにする。
    そしてボロボロになった土地がもとに戻るには,長い時間がかかる。
    アメリカ西部の大農法は,水を地下水で賄っている。
    この地下水は,地球史のスケールの時間をかけてできたものである。
    大農法はこれを大量に汲み上げる。
    この結果,水を汲む井戸は深くなる一方で,そして遂には涸れる。

    いまの食糧輸出国は,農業であれ漁業であれこれを必ずダメすることになる。
    中国は,こうなる前に,少子高齢化の時節を終わらせねばならない。
    しかし,中国の少子高齢化は,何十年も続くことになる。
    中国政府の心穏やかならざること,如何ばかりや。