Up 繁殖期 作成: 2023-03-07
更新: 2023-03-07


    ひとの繁殖は,<巣内育児>型である。
    しかしその繁殖は,繁殖期の無いことが,巣内育児する他の生物種の繁殖と異なる。
    翻って,「繁殖期」の意味を押さえることは,ひとの繁殖の特殊性を押さえることになる。


    繁殖期があるのは,その時期を外すと繁殖できないからである。
    繁殖は,つぎの2つとシンクロしてはじめて可能になる:
        季節
        他の生物種の生活サイクル
    このシンクロは,生態系進化のダイナミクスで実現される。
    そして「繁殖期」がこれの実現形というわけである。

    例えば,ヒグマ。
    ヒグマの交尾期は,雪が解けた5月から初夏にかけて。
    そして,妊娠したメスは冬ごもりの中で出産する。
    なぜこうなるかというと,夏は餌が乏しいからである。
    ──夏期は,飢えて痩せ細る時期である。
    秋は餌が豊富になるので,このとき大量に食べ体力をつけて冬を越す。
    そして春は,子どもが食べられる餌が豊富に揃う。
    このサイクルに乗らないと,子づくり・育児はできない。

    動植物の繁殖期は同じではない──種によって違う。
    これは,それぞれの種が生きられるニッチを,進化のダイナミクスが実現したということである。
    他と衝突しないよう共生関係が調整され,そしてその共生関係が繁殖期を決める。


    ひとの繁殖に繁殖期が無いのは,ひとが自然生態系とのシンクロ/共生に縛られなくなったからである。
    どのようにして?
    採集を農業に替え,漁猟を養殖に替えることによってである。
    季節にはまだまだ振り回されるが,それでもテクノロジーによって,季節の縛りからますます離れるようになっている。


    しかし,「繁殖期」が無意味になることは,「繁殖」が自然でなくなることである。
    繁殖は生物の自然だが,ひとにとって繁殖は自然でなくなる。

    そして,ひとにとって繁殖は,これの意味・理由を問うものになり,自ら退けることがあり得るものになった。
    ひとにとって<生きる>が意味・理由を問うものになり,自ら退けることがあり得るものになったのと,同じである。