読売新聞, 2023-03-07


     
    帰還わずか18% 入手不足
     東京電力福島第一原発事故後、最後まで全町避難が続いた福島県双葉町。 原発から約4キロの沿岸部49.6ヘクタールの敷地に、いま新しい工場群が姿を現している。
     帰還者の雇用確保のため、町は2018年1月からこの産業団地の整備を始めた。 立地協定を結んだ24社のうち18社が操業しているが、ここで働く従業員の中に町の帰還者は一人もいない。
     事務所を構える運輸業「東北アクセス双葉営業所」でも、従業員8人全員が町外に住み、最大1時間超かけて通勤する。 所長の佐藤治康さん(55)は「町にはスーパーもなく、飲食店や賃貸アパートも限られている。従業員が住むことは想定していない」と話す。
     町は昨年8月に帰還が許されたが、居住者は約切60人、事故前の0.8%だ。 2月に県議会特別委員会に招かれた伊沢史朗町長は、「地元に戻って働く人のために産業団地を造ったのに、町民は誰も働いていない。何のためにやったのか」と住民帰還の難しさを吐露した。
     11市町村の避難指示区域からは、約8万8000人が県内外に避難した。 解除後の居住人口は約1万6000人で、事故前の約18%にとどまる。 放射線量の高い帰還困難区域の一部に設けた特定復興再生拠点区域 (復興拠点)でも、昨年は双葉町のほか、葛尾村、大熊町が解除し、今春も浪江町、富岡町、飯舘村が解除を目指すが、厳しい状祝は同じだ。
     特に進学や就職で避難先に定着した子育て世代の帰還が進まず、児童生徒数はかつての1割に満たない。
     人が戻らず、企業は人材確保に苦しんでいる。 原発周辺自治体を管轄するハローワーク相双では、就職活動中の約2000人のうち、半数が50歳以上で、60歳以上も3割近くを占める。 多くがパート希望者のため、若い世代をフルタイムで雇いたい企業側とのミスマッチが目立つ。 昨年12月時点の有効求人倍率は 2.02 倍で、全国平均 (1.35倍)や県平均 (1.45倍) と比べても際立つ。
     東北アクセスでも3年前から、運転手や運行管理者の求人を出しているが、これまで応募は一度もない。
     入手が足りないから、住民サービスも低下する。
     21年の復興庁などの住民意向調査で、市町村によって3〜5割が「帰還の判断に介護施設などの充実が必要」と回答する。 しかし、整備が追いつかず、11市町村に事故前回18か所あった入所型施設は、いま7か所だ。
     浪江町の社会福祉協議会が昨年7月に開所したデイサービス施設の登録者は30入で、一日約10人が利用する。 町唯一の介護施設だが、提供できるのは日帰りの介護サービスだけだ。
     町社協の施設は「あと3人採用できれば、宿泊サービスにも対応したい」というが、求人への応募はほとんどない。 生活相談員の影山強さん(52)は訴える。「人手が確保できないために住民サービスは向上せず、帰還の妨げになっている。負の連鎖だ」