- 古生代
|
Prothero (2015) :『11の化石 生命誕生を語る [古生代]』,
pp.36-38.
第1章では、ダーウィンが抱いていた「カンブリア爆発」に関する疑問に対して、ストロマトライトと呼ばれる三五億年前の微生物マットの発見によって最初の答えが得られ、さらには同じ年代の地層からシアノバクテリアなどのバクテリアの徴化石が発見されたことを見た。
そして第2章では、いかにして単細胞生物からエデイアカラ生物群の多細胞の軟体生物が生じたかを見た。
だが、殻を持つ動物はどうなのだろうか。
いつ出現したのだろうか。
硬い殻の成長 (バイオミネラリゼーション) の厄介な点は、それが思うほど簡単ではないということだ。
ほとんどの動物にとってカルシウムと炭酸、またはケイ素と酸素のイオンを海水から引き出して分泌し、方解石(カルサイト)やシリカの殻を生成するのは骨の折れる仕事だ。
このような種類の鉱化作用を起こすには生化学的経路が必要であり、普通はエネルギー的に非常に高価なプロセスなのである。
例えば、二枚貝や巻貝などの厚い殻は外套膜と呼ばれる体の器官でつくられる。
外套膜は軟体動物の殻のすぐ下にあり、軟組織を覆っている。
この器官には、海水からカルシウムイオンと炭酸イオンを引き出して炭酸カルシウムの結晶に変える特殊な構造と生理学的メカニズムがある。
軟体動物は炭酸カルシウムを方解石と霰石(アラゴナイト)という二種類の鉱物として分泌することができる。
方解石はほとんどの石灰岩に見られるありふれた鉱物であり、霰石または真珠層はほとんどの軟体動物が殻の内側を覆うのに使う鉱物である。
そのため、ほとんどの軟体動物の殻の内側は、例えばアワピの殻の内側のように虹色の光沢がある。
さらにこのメカニズムは、宝石収集家を魅了する真珠も育てる。
真珠はある種の軟体動物の外套膜に侵入した核(例えば砂粒)のまわりに霰石が分泌されて層状になった単純な構造からなる。
砂粒が外套膜を刺激しつづけないようにコーティングが分泌されるのだ。
エディアカラ生物群の時代が長かった(一億年以上にわたる)ことから、軟体の大型の生物が非常に長い期間、硬い殻を持たずに問題なく過ごしていたことがわかる。
主要な動物群が分岐した年代を示す分子時計のデータから判断すると、ほとんどの主要な門 (カイメンとクラゲとイソギンチャク、蠕虫類、節足動物、腕足動物またはホオズキガイ、軟体動物) はエデイアカラ紀にまでさかのぼり、軟体の生物として存在していた。
殻を持つことで体のデザインをさらに多様化させたのはずっと後のことだった。
殻の形成がそれほど大変なら、いったいなぜ殻が進化したのだろうか。
ほとんどの場合、殻は捕食者からの防御の役目を果たしている。
殻が出現しはじめたのは、殻がなく攻撃に弱い軟体生物をすべて食べつくしてしまう新しい捕食者が地球上に現れたことに対する適応反応だったと多くの古生物学者が考えてきた。
また、いくつかの動物の場合には、殻は体が必要とする化学物質の貯蔵庫としての役割も果たしている。
さらには、さまざまな代謝過程で出る余分な老廃物を分泌するために殻を使用する軟体動物もいる。
さらに重要なのは、鉱物化した殻によって体制の多様化が可能になることであり、それによって生態的多様性と柔軟性がはるかに増すことだ。
殻を持たない一握りの現生軟体動物 (例えば溝腹類) はほとんどが蠕虫類のような形をしているが、軟体動物は殻を持つことによって、ヒザラガイ、二枚貝、カキ、ホタテガイ、ツノガイ、カサガイ、アワビ、カタツムリ、コウイカ、イカ、オウムガイなどというように、はっきりと異なる多様なグループに進化することができた。
軟体動物は潮だまりの岩の上をのろのろ動いて藻類を食べる、動きが遅くて単純なカサガイやアワビから、頭のない櫨過摂食性の二枚貝、そして、非常に知的で動きの速いタコやイカやコウイカといった捕食者まで、さまざまな種類がある。
pp.48-50.
約6億〜5億4500万年前、唯一の多細胞生物は殻を持たない大型で軟体のエディアカラ生物群だった。
どうやら地球化学的条件 (特に酸素濃度の低さ) が大型の殻を持つ動物の進化を許さなかったらしい。
謎の多いエディアカラ生物群のほかには「小さな殻」の先駆け──特にクラウディナとシノチューブライツ──がストロマトライトのマットの間に生息していた。
そして、5億4500万〜5億2000万年前 (ネマキット・ダルディニアンとトモシアン) の間、地球上で最大の生物は皮膚に鉱物化した装甲の小片がある軟体の動物や、小さな骨針を組み合わせたカイメン、そして小さな殻を持つ軟体動物や腕足動物だった。
そして、大型の多細胞生物が最初に出現してから少なくとも8000万年が経過した5億2000万年前ごろになると、ついに大型の石灰化した殻を持つ動物が現れた──それが三葉虫だった。
したがって、「カンブリア爆発」などなかったのである──もし8000万年間 (エディアカラ紀の始まりからアトダパニアンまで) や2500万年間 (カンブリア紀初期の最初の二つのステージの間) を「爆発」と考えないならば。
|
|
- Wikipedia「カンブリア爆発」
「 |
カンブリア爆発は「化石記録の」爆発的多様化であり、必ずしも進化的な爆発を意味しない。」
|
- 中生代
- 新生代
- 参考/情報サイト
- 参考文献
- Newton (ニュートンプレス)
- 黒岩常祥,『細胞はどのように生まれたか』, 岩波書店, 1999
- Prothero, D. R. (2015) : The Story of Life in 25 Fossiles ─ Tales of Intrepid Fossil Hunters and the Wonders of Evolution
- Columbia University Press
- 江口あとか[訳]『化石が語る生命の歴史』, 築地書館, 2018
- 土屋健[著], 群馬県立自然史博物館[監修]『リアルサイズ古生物図鑑 古生代編 ──古生物のサイズが実感できる!』, 技術評論社, 2018.
|