Kauffman, S. は,「自然淘汰」で生命・進化は説明できないとして,つぎの3本立てで生命・進化を説こうとする者である:
- 自己組織化
- 自然淘汰
- 歴史上の偶然の出来事
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カウフマン『自己組織化と進化の論理』
p.273
自己組織化と自然淘汰と歴史上の偶然の出来事とが,たがいに当然の居場所を確保しつつ,進化論的な過程を説明できるような,新しい概念上の枠組み
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彼の説は,つぎのものである:
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カウフマン『自己組織化と進化の論理』
p.90
生命の標語は,「われわれは生じそうもなかったものである」から,「われわれは生じるべくして生じたものである」に書き換えられる
p.92
もしわれわれ生物が,ほとんどありえそうもない「まれな存在」であるならば,われわれは時間と広がりの中に生じた単なる不可解な謎になってしまうであろう。
しかし,もしこの見方が誤っており,生命が生じやすいものだったと信じる何らかの理由があるならば,われわれは爆発的に広がりつつある宇宙における謎ではなくなる。
われわれは,その中の自然な一部となることができる。
p.93
科学スープの中で分子の種類の数がある閾値を超えると,自己を維持する反応のネットワーク──自己触媒的な物質代謝──が,突然生ずる‥‥‥
生命は単純な形ではなく,複雑で全体的な形をもって現れた。
そしてそれ以来,複雑で全体的なままであるのだ‥‥‥
生命の秘密,複製の源は,‥‥‥集団的に触媒作用を営む閉じた集団の達成に見出されるのである。
その核心は‥‥‥化学そのものに基づいたものである。
したがって,複雑で全体的な生命,創発的である生命は,別の意味で結局単純であり,われわれが住む世界から生じた自然な結果だということになる。
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科学者の<科学的命題を説く>は,<説の根拠とする科学的作業を自ら行なっている上で,科学的命題を説く>である。(科学者と哲学者の違い!)
カウフマンが自分の科学的作業として示すものは,つぎの「NK Boolean network の自己組織化」実験である。
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カウフマン『自己組織化と進化の論理』
pp.138-140
各酵素のとれる活動状態は、たった二つ──オンとオフ──しかなく、酵素はそれらの間をスイッチできると仮定してみよう。
すなわち,各酵素は各瞬間に活動的であるか、あるいは非活動的であるかのいずれかである。‥‥‥
酵素、基質、そして生成物の物質代謝のネットワークを、導線によってつながれた電球のネットワーク、すなわち電気回路と見なすことにしよう。
他の分子の形成に触媒作用を及ぽすある分子は、他の電球を点ける電球と見なすことができる。
分子はたがいの形成を抑制することもできる。これは、他の電球を消す電球と見なせばよい。
‥‥‥
何千もの分子種を、こうしてでたらめに調合したものは、不規則な、そして不安定な仕方で振る舞いそうなものだと考えるかもしれない。しかし実際には、その逆が真なのである。秩序は自発的に生ずる。無償の秩序である。
比喰に戻ろう。
電球をランダムにつないでも、凶暴なクリスマスツリーの巨大な森がきらめくように、それらがランダムに点いたり消えたりするということは必ずしも起こらない。適当な条件が与えられれば、それらは揃ったパターン、そして繰り返しのパターン (周期性をもったパターン) へと落ち着いていくのである。
p.150
ネットワークがどのように構成されたかを特徴づける二つの性質によって,
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(1) |
ネットワークが秩序状態に存在するのか, |
(2) |
カオス的な状態に存在するのか,あるいは, |
(3) |
これらの間の相転移点のような状態,すなわち「カオスの縁」に存在するのか |
が決められる。
第一の性質は、それぞれの電球を制御している「入力」の数である。
それぞれの電球が、他の一つまたは二つのみの電球から制御されている場合には、すなわちネットワークが「まばらに結合している」場合には、系は驚くべき秩序を示す。一方、各電球が、他の多くの電球から制御されている場合には、系はカオス的となる。したがって、ネットワークの結合性を「調節」すれば、秩序とカオスのどちらが出現するかを調節できるわけである。
秩序あるいはカオスの創発をコントロールする第二の性質は、制御規則そのものの単なる偏りである。
いくつかの制御規則──われわれが論じてきたANDブール関数とORブール関数など──は、規則的なダイナミクスをつくり出す傾向をもつ。別の制御規則はカオスをつくり出す。
pp.154,155
ほとんどのブール式ネットワークはカオス的である。そして小さな突然変異についての優雅さを欠いている。
KがNよりずっと小さい、K=4 または K=5 といったネットワークでさえも、予測不可能でカオス的な振る舞いを示す。その振る舞いは、K=N のネットワークにおいてみられたものに類似している。
それでは秩序はどこから生じるのであろうか?
秩序は K=2 のネットワークにおいて突然に生じ、われわれを驚かせる。
‥‥‥
100,000 の電球からなるブール式ネットワークを考える。電球のそれぞれは、K=2 個の入力を受け取っているとする。‥‥‥
系は2の10万乗、あるいは10の3万乗個の状態をもつ。
何が起こるか?
この巨大なネットワークは、速やかに、そしておとなしく落ち着き、電球の数10万の平方根、すなわちわずか約317個の状態の間を循環することになるのである。
pp.155,156
これらのネットワークでは、秩序はさまざまな形で顔を出す。
近くの状態どうしは、状態空間の中でたがいに近づき合う。
言い換えれば、類似した二つの初期パターンは、同じ引き込み領域の中にいる可能性が高い。
したがって、系は同じアトラクターに落ち込むことになる。
そういう系は初期条件についての敏感性を示さない。
カオス的ではないのである。
結果として生じるのは、われわれが求めている恒常性だ。
このようなネットワークは、一度アトラクターにのってしまえば、摂動を受けたとしでも、非常に高い確率で同じアトラクターに戻ってくるであろう。
このたぐいのネットワークでは、恒常性は無償で手に入るのである。
同じ理由から、配線や論理構造を変えるような突然変異にも、これらのネットワークは耐えることができる。
ランダムな状態に向かうことはない。
小さな突然変異のほとんどは、ネットワークの振る舞いに、われわれが望んでいたような小さく優雅な変化を引き起こすのである。
引き込み領域やアトラクターは少しだけ変化する。
こうした系は容易に進化する。
したがって自然淘汰が、進化を可能にしようと苦闘しなくてもよいのである。
最後につけ加えておくと、これらのネットワークは規則的にすぎるということもない。
K=1 のネットワークとは異なり、それらは岩のように凍結したりはしない。
複雑な振る舞いをすることができるのである。
私は強く主張する。
秩序の必要条件について、われわれは何千年もの間、間違った直感を抱いてきた。
注意深い構成は必要ではない。
念入りな作成は必要ではない。
われわれが必要とするのは、相互作用し合う要素のきわめて複雑な織物内の結合、これがまばらであることだけなのである。
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- 参考Webサイト
- 参考文献
- Kauffman, Stuart : At home in the universe ─ The search for laws of self-organization and complexity.
Oxford University Press, 1995.
米沢富美子[監訳]『自己組織化と進化の論理 ─ 宇宙を貫く複雑系の法則』, 日本経済新聞社, 1999.
- Waldrop, M.Mitchell : Complexity ─ The emerging science at the edge of order and chaos.
Simon & Schuster, 1992.
田中三彦・遠山峻征[訳]『複雑系』, 新潮社, 1996.
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