Up 岩石の勉強 作成: 2025-04-08
更新: 2025-04-08


    科学の勉強は,とっつきにくさがつきものである。
    そして,そのとっつきにくさには,色々なとっつきにくさがある。

    岩石の勉強は,岩石学が厳密な学でないことが,とっつきにくさになる。
    実は,学問は厳密学である方が勉強しやすい。
    小学校の算数は,わからないことが多くても,とっつきやすさは国語なんかと比べれば上である。 ──国語の勉強は,何をしたら勉強していることになるのか,さっぱりわからない。,

    岩石を勉強しようという気持ちは,岩石図鑑にあたると,たちまち挫かれる。
    図鑑に載っている画像は,とらえどころがない。
    とらえどころがないのは,不定形を切り取ったものだからである。
    画像間の違いも,画定的でなく見える。
    連続的であるように見える。


    そしてそもそも,岩石は身近なものではない。
    岩石は,だいたいが土に覆われている。
    土は,生物が棲みつき,その遺骸の蓄積がつくったものである。
    岩石が土に覆われていないとは,そこが生物の棲み着かないようなところということ。
    そこは,ふつう人のアクセスしないところ,ということになる。

    ひとが岩石と身近に出遭う形は,河原の石である。
    河原の石は,岩石の一部。
    石の色々は,岩石の色々を表している。
    しかし,どんなところにあった岩石かとなると,わからない。


    岩石の勉強は,つぎの勉強である:
    • 岩石発現のメカニズム/プロセス
    • 岩石の色々
    学習用テクストは,これがとっつきやすく書かれていて欲しい。

    学習用テクストは,「岩石はその成因によって火成岩・堆積岩・変成岩に分けられる」の文言から始める。
    そして初学者は,この文言で早くも躓く。
    「火成岩・堆積岩・変成岩」は岩石の分類ではないのに,分類みたいに語られるからである。

    岩石にはそれぞれ歴史がある。
    ある岩石の歴史は,「火成あり堆積あり変成あり」かも知れない。
    「火成・堆積・変成」は,メカニズム/プロセスの概念である。
    そして,岩石に単一のメカニズム/プロセスを当てることはできない。

    「岩石はその成因によって火成岩・堆積岩・変成岩に分けられる」は,ダメ。
    言い方は:
     「岩石の発現メカニズム/プロセスの大きなカテゴリーとなるものに,火成・堆積・変成がある」
    そこで学習テクストのたとえば「火成岩」のことばは,「火成メカニズム/プロセスによる造岩」と読み換える。


    火成岩に対し,堆積岩・変成岩は2次的な岩石である。
    堆積岩・変成岩は,何でもありになる。
    都市が廃墟になり,堆積・変成のダイナミクスによって岩石になるとき,その岩石は堆積/変成岩である。
    石灰岩や石炭は生物遺骸由来の岩石 (生物岩石) であるが,これも堆積/変成岩。

    よって,岩石を分類しようという気が興るのは,火成岩に対してということになる。
    このとき学習用テクスは,先ず「深成岩と火山岩」に進む。

    火成岩は,マグマが冷えて固化したものを謂う。
    このとき,つぎの2つを区別する:
    • 地表から深いところで,ゆっくりと冷える
    • 浅いところで,急速に冷える
    この区別を立てるのは,前者では「結晶化」が起こるからである。
    前者を深成岩,後者を火山岩と呼ぶ。


    岩石の分類──岩石を色々に見る──は,成因による分類に対し,成分よる分類が立つ。
    この2つの分類は,互いを一方を横断する格好になる。

    造岩元素の主なものは:
      (a) Si, Ca, K, Na
      (b) Mg, Fe
    ここで,2つのグループに分けたのは,(a) に富むと岩石は白色〜淡色になり,(b) に富むと有色になることによる。
    ひとが岩石の色々を見た目で捉えるときは,先ず色を手掛かりにするので,このグループ分けをするのである。

    (a) に富むと岩石をフェルシック (felsic) 岩,(b) にに富むと岩石をマフィック (mafic) 岩と呼び,両者の中間を中性岩と呼ぶ。
    こうして,つぎの火成岩分類枠組ができる:
felsic 岩  中性岩  mafic 岩
火山岩
深成岩
    で,各枠の岩石に与えた名前が:
felsic 岩  中性岩  mafic 岩
火山岩 流紋岩 安山岩 玄武岩
深成岩 花崗岩 閃緑岩 斑糲(はんれい)

    岩石学初歩では,先ずこの名前を覚える。
    この表の形で名前を覚えてしまうと,続く勉強がたいそうラクになる。
    逆に,そうでないと,後が続かない。

    実際には,この枠組はずいぶん粗っぽい。
    実用では,「花崗岩」が「花崗岩・花崗閃緑岩」になり,「流紋岩」が「流紋岩・デイサイト」になり,そしてさらに細分が加えられる。
    しかしいまは,基本の段階である。
    細かくなる話は,無視を決め込む。


    学習用テクストは,つぎに「鉱物」の話に進む。
    ここで,内容が一気に七面倒臭くなる。

    気相・液相の物が「晶化」の形で固化することがある。
    「鉱物」は,岩石学が主題とする状況において,これが成ったものである。

    ここで「岩石学が主題とする状況において」の言い方をしたのは,つぎのことを考慮するからである:
    • マグマの固化でできた結晶物を,鉱物と呼ぶ。
    • 水晶は,マグマの晶化ではなく,二酸化ケイ素が溶けている熱水の晶化だが,鉱物である。
    • 雪は結晶だが,鉱物とはいわない.

    岩石の「鉱物」は,内容がとっつきにくい。
    そのとっつきにくさの理由の第一が,「岩石学が主題とする状況において」の慣用である。

    そこで初学者は,先ずは「鉱物=マグマの晶化物」限定でよしとする。
    そしてマグマの晶化は深成岩の場合であるから,「深成岩の鉱物」が学習内容である。


    深成岩は,成分による分類が,色による分類と重なるよう,つぎのようにつくられた:
    • Si, Ca, K, Na に富むことで白色〜淡色の, フェルシック岩
    • Mg やFe に富むことで有色の, マフィック岩
    • その中間の, 中性岩

    これに準じて,鉱物をつぎの2つに分ける:
    • フェルシック岩の鉱物──フェルシック鉱物
    • マフィック岩の鉱物──マフィック鉱物

    このとき,つぎの鉱物の名前が挙がる:
    • フェルシック鉱物
      • 石英
      • 長石
    • マフィック鉱物
      • カンラン石,
      • 輝石,
      • 角閃石,
      • 黒雲母,
      • 白雲母

    これらの鉱物の名前を,この枠組で覚えてしまう。
    覚えないと,後の学習が続かない。


    学習用テクストは,以上の大枠から,細部に入って行く。
    この細論がまた,岩石学のとっつきにくさになる。

    学者は細論で業績を稼ぐ者なので,細かく分類してはその類それぞれに名前をつける。
    こうして岩石学は,岩石・鉱物の名 (階層名) の満載になる。

    そして,仔細は瑣末に通じる。
    大事と小事の区別がつけにくくなる。
    学習用テクストは,些事に嵌まらず,大事を追っていくように書かれていて欲しい。