Up 反自然 作成: 2022-01-26
更新: 2022-01-26


      Dunn (2011), pp.280-282.
    太古の昔、わたしたちはダーウィンが言うところの「種がもつれあった土手」で暮らしていた。
    五億年前、心臓は血液を送り出すように進化した。
    その鼓動は生理的なものだったが、それに続く体の精巧な作りはすべて、他の生物との相互作用を通じて進化した。
    4億9000万年前、獲物を見つけるために目が誕生した。
    その後、食べられる種を見つけ、有毒な種を避けるため、すなわち、必要なものに近づき、不必要なものから遠ざかるために、最初の味蕾が進化した。
    併せて、細菌を識別して、好んだり嫌ったりするために、免疫システムが進化した。
    これらはすべて、他の動物にも共通して言えることだ。
    わたしたちの体は、このようにして他の種と結びついている。
     人間に近づくにつれて、いくつかの形質が特に目立ってくる。
    ヘピなどの脅威や果実を見つけるために、視覚が向上した。
    獲物を追うために足は長くなり、肺は大きくなった。
    手は武器を握りやすいようになった。
    こうした進化を重ねるうちに、どこかで意識が生じ、やがてわたしたちはその意識に導かれて都市や社会を築いていった。
     意識が働くのは、わたしたちの活動のごく一部に限られる。
    狩猟採集や社会生活に用いる視覚、聴覚、嘆覚などは、意識する (すなわち、感知する) ことができる。
    免疫システムも、そうした五感に似た形で作用するが、その選択は感知されない。
    わたしたちは、五感を総動員しても、自分の周囲に存在するものや、それに対する自らの選択のすべてを感知することはできないのだ。
    人間の聴覚や嗅覚、味覚、触覚には限界があるため、他の動物が鮮明に感じる情報を感じとることができない。
    また、自らの目や鼻、耳、味蕾が捉えた情報も、その大半は意識されることなく脳に送られ、無意識の行動を引き起こしている。
     しかし、わたしたちは、この体がどれだけ周りの種に依存しているかを忘れて、その不確かな感覚に従った。
    自分が喜ばしく思えるように、この世界を作りなおしたのである。
    生活から多くの種を排除し、地球の多様な生物の中からごく一部の種を選び出してひいきした。
    しかし、一部の種──現在では有害生物と考えられている種──は、わたしたちが設けた壁や障害物をこっそりと乗り越えてやってきた。
    招かれもしないのに、わたしたちの生活に入りこんだのだ。



  • 引用文献
    • Dunn, Rob (2011) : The wild life of our bodies
        Harper, 2011.
        野中香方子[訳]『わたしたちの体は寄生虫を欲している』, 飛鳥新社, 2013.