生殖細胞の遺伝子をいじって,個体を発生させる。
こうして生まれてくるのが,「デザイナーベビー」である。
特に,遺伝子組み換え作物は,「デザイナー・ベビー」である。
「デザイナー・ベビー」は,今日では特別なことではない。
探求心と商業主義は,何ものも止められない。
「倫理」障壁など軽々と乗り越える。
「デザイナー・ベビー」が人間に適用されるのに,たいして時間はかからない。
実際,デザイナー・ベビーは,産業になる。
産業になるのは,これを求める者が出てくるからである。
そして人は,産業になるものは産業にせずにはおかない。
「デザイナー・ベビー」の問題は,「倫理」ではない。
問題は,つぎの矛盾である:
《ひとは,世界が自分の都合のよいものであることを望む。
一方,他人の都合で世界が変えられることを望まない。》
この問題に「倫理」を立てるのは,ミスリーディングである。
問題の意味の捉え損ないである。
「デザイナー・ベビー」の問題は,「優生主義」である。
人の利己は,自分や近親の優生を求める。
人は,個人では,優生主義者なのである。
優生主義──人は個人では優生主義者──は,つぎの二つの問題になる:
- 優生を獲得するのは,金のある者──「格差」問題
- 優生主義からつくられた者の都合──「アイデンティティー」問題
a.「格差」問題
医療は,優生主義である。
人の利己は,自分や近親の優生を求める。
こうして,医療の優生主義キャンペーンは成功する。
医療は,このとき,優生医療の値段がとんでもなく高くなることを隠している。
優生医療を受けられるのは,金のある者である。
富裕と優生が正の循環をすることは,「有名校進学」が示している。
富裕がここで獲得しているのは,「優生環境」である。
優生医療は,富裕にさらに「優生形質」を獲得させる。
こうして,富裕と優生の正の循環は,決定的なものになる。
b.「アイデンティティー」問題
思考実験として,匿名の卵子と精子が試験管の中で結合し,人工胎盤の中で成長し,そして個が生まれる場合を考える。
この個は,アイデンティティをどんなふうにもつことになるか?
というのも,アイデンティティとは帰属意識のことであり,そして帰属意識は「血縁」がベースになるからである。
この個は,人工物として,血縁の帰属意識と無縁のものである。
デザイナー・ベビーは,「遺伝子組み換え作物」として,<新種のアイデンティティを自ら開発せねばならない者>として生きていくことになる。
産業は,彼らに対し責任を負うものではない。
因果応報は,社会全体が負うことになる。
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