Up 「遺伝子治療」「幹細胞再生医療」のことばに騙される 作成: 2021-09-18
更新: 2021-09-18


    ひとは,「遺伝子治療」「幹細胞再生医療」のことばに騙される。
    すなわち,遺伝子治療というものがあり,それで治療されている者がいる,と思う。
    「幹細胞再生医療」については,できていないことを知っている者も,実験で着々と成果を上げており,早晩実現する,と思う。

    実際は,遺伝子治療で治療されている者はいない。
    幹細胞再生医療の実験は,成果を出せていない。


    こうなるのは,やろうとしていることが土台不可能な事だからである。
    この「不可能」は,やる気とか技術とか資金が理由の不可能ではない。
    この「不可能」は,「原理的に不可能」である。

    ひとが「遺伝子治療」「幹細胞再生医療」のことばを真に受けるのは,「遺伝子・細胞」の知識が無いからである。
    実際,最も初歩的な知識となるところのつぎのことを知らない:
    • 遺伝子は,すべての細胞に同じものがある。
    • ヒトの細胞の数は,何十兆規模。


    (1)「遺伝子治療
    「遺伝子治療」の意味は,「遺伝子の欠陥部分を治療する」である。
    その「欠陥部分」は,何十兆個もの細胞すべての中にひとしく有る。
    また,細胞は分裂するが,その分裂は遺伝子の複製である。

    そんな遺伝子が「治療」の対象になるか?
    答えは一つ。
    ならない。──「治療」の考えようが無い。

    実際,「遺伝子治療」があり得るとすれば,それは細胞が1個の場合である。
    そしてそれは,精子か卵子の場合である。
    即ち,「遺伝子治療」は,つぎのどちらかである:
    • 精子に対し遺伝子組み換えの操作をし,この精子を使って人工授精させ,子どもをつくる
    • 卵子に対し遺伝子組み換えの操作をし,この卵子を使って人工授精させ,子どもをつくる

    この「遺伝子治療」──ヒト遺伝子組み換え──は,優生思想に立っていることになる。
    優生思想に対してはこれを却けるというのが,いまのところ世界の大勢である。
    よって,この「遺伝子治療」はいまのところ却けられている。
      「いまのところ」とここで言うのは,ヒト遺伝子組み換え医療の解禁を求める優生需要に,早晩押し切られるだろうからである──遺伝子組み換え作物の解禁のように。


    (2)「幹細胞再生医療
    器官の形成は,「成長」という流れの中にある。
    幹細胞の機能発現は,ステージを問わないというものではない。
    体の他の要素との相互作用が一定の仕方で進行して,はじめて正常な器官の形成となる。

    この相互作用のプロセスは,何十億年という時間スケールの地球・生物進化の成果である。
    人が手を出せる領分ではない。
    実際,ステージを無視して幹細胞の機能を発現させるとき,形成されてくるものは<できもの>の類である。

    国は「幹細胞再生医療」の研究団体に多額の運営交付金を出してきているが,それは「幹細胞再生医療」が一大産業になることを期待しているためである。
    外国と競争する国の政治は,自国がこの分野で1位になることを夢見る。
    そして,騙されてしまう。
    政府といっても,門外漢であることにおいては大衆と同じである。

    騙した格好の研究団体は,当然,心中穏やかでない。
    しかしもう引っ込みがつかない。
    多額の運営交付金をこれまで出し続けてきた政府も,引っ込みがつかない。
    こうして「幹細胞再生医療」は,その中身が問われないという,宙ぶらりん状態になる。
    これがいまの状況である。