Up 物質量の多様と次元の相似 作成: 2022-07-19
更新: 2022-07-19


    物体の周りを流体が流れると,つぎのイメージの,速度や温度の境界層がつくられる:
HEXAGON『もっと流体基礎』から引用 (一部編集)

    速度境界層は,「流体の粘性による力の遷移」で説明される。
    そして,つぎの式 (「ニュートンの粘性法則」) に表現される: \[ 剪断応力\tau = -粘性係数\mu \times 速度勾配\frac{du}{dy} \\ \quad 次元(単位): Pa = Pa \cdot s \times \frac{m/s}{m} \] また温度境界層の方は,つぎの熱遷移の式 (「フーリエの法則) に表現される: \[ 熱流束 q = -熱伝導率\lambda \times 温度勾配\frac{dT}{dy} \\ \quad 次元(単位): \frac{W}{m^2} = \frac{W}{m \cdot K} \times \frac{K}{m} \]

    この2つの式に対しては,自ずと「相似」を見ることになる。
    この相似は外観だけのもの?
    否。2つの式は,つぎに示すように,量の次元 (単位) 込みで相似である:

      先ず,N と W は,つぎのように相似である:, \[ N = kg \cdot \frac{m}{s^2} = \bigl( kg \cdot \frac{m}{s} \bigr) / s \ :運動量遷移速度 \\ W =J / s \ :熱量遷移速度 \] そして \[ N \ (運動量遷移速度) \ \longleftrightarrow \ W \ (熱量遷移速度) \\ m / s \ (速度) \ \longleftrightarrow \ K \ (温度) \] の対応をつけるとき, \[ Pa = \frac{N}{m^2} \ \longleftrightarrow \ \frac{W}{m^2} \\ Pa \cdot s = \frac{N}{m^2} \cdot s = \frac{N}{m \cdot (m/s)} \ \longleftrightarrow \ \frac{W}{m \cdot K} \\ \frac{m/s}{m} \ \longleftrightarrow \ \frac{K}{m} \]


    以上のことを,ここではつぎのようにまとめておく:
    • 運動と熱の間には,つぎの対応 (次元相似の対応) がある:
        運動量 \( \longleftrightarrow \) 熱量(註)
        速度  \( \longleftrightarrow \) 温度
    • 翻って,一般につぎのように言うことができる:
       「物質量は多様に考えられるが,そこには次元の相似がある。


    註: 熱量を「熱エネルギー」と同義と述べるテクストに出遭うことがあるが,これは間違い。
    二つの概念が違うことは,「保存則」を挙げればよい。
    熱量の概念は「保存則」を含蓄するが,「熱エネルギー」は保存則が立たない。
    そして,そもそも物理学は,「熱エネルギー」を正式には定立していない。
    熱量と「熱エネルギー」が同義だとする誤解は,何に由来するのか。
    おそらく,両者の単位がともに J (ジュール) であることに由来する。