Up 宇宙の空間構造 :「位相空間・多様体」 作成: 2017-12-16
更新: 2017-12-16


    膨張宇宙モデルというのがある。
    実際,天体観測をすると,猛スピードで遠ざかる天体が観測される。

    この膨張は,空間のどの点においても,等しく<自分からの拡散>である。
    この膨張には,中心・縁が無い。

    「中心・縁が無い」のイメージを伝えようとして,風船が喩えに用いられることがある。
    宇宙を風船の面に喩えるわけである。
    風船を膨らませると,全体が均しく膨張する。

    しかし,この喩えは,「膨張の中心」ができてしまう。
    風船の中心である。
    この中心は,解釈が立たない。


    宇宙は,中心・縁が無い。
    どの点も,身分的に平等である。
    これの数学モデルは,位相空間である。
    土台をパラコンパクトハウスドルフ空間くらいに考えておくとよい。

    膨張モデルの間違いは,計量をグローバルに入れようとするところにある。
    宇宙空間は,《計量は局所的にその都度入れる》というふうになるものである。

    局所的計量構造がつながっている様は,数学の「多様体 manifold」の概念になる。
    宇宙空間は,「位相空間」「多様体」の構造で考えるものである。


    膨張モデルは,自分を中心とする3次元デカルト座標枠を措定する。
    これは,現代版「地動説」である。
    ひとは何だかんだいっても,地動説から脱けられない。
    自分中心を脱けられないわけである。
    宇宙を考えるときは,「宇宙の果て」「宇宙の大きさ」を考えてしまう。

      膨張モデルだと,自分の中心から遠い点ほど,その距離に比例して遠ざからねばならない。 したがって,遠ざかる速度が光速を超えることになる距離というのも,想像されてくる。 実際,そのようなことを書いているテクストがある(註)

    超ひも理論とかでは,「宇宙は何次元」を喋っている。
    これも,宇宙空間に対する「位相空間・多様体」の捉えが無い様である。
    宇宙は,グローバルな次元枠の入るものではない。


    「膨張する宇宙」は,自分を原点にしたデカルト座標で宇宙を観測するときの含蓄である。
    デカルト座標は,「果て」を設けることになる。
    縁の無い宇宙に対し,縁を無理矢理設ける枠になる。
    そしてこの枠で宇宙を観測すると,「膨張」が見えることになる。

    どういうことか?
    縁の無い空間に縁の断絶を入れるとき,「縁の断絶は実際には無い」の表現が現象することになる。
    現象するのは,縁の断絶を塞ごうとする様である。
    それは,縁にされる部分が他と直ちにつながろうする様である。
    これが「猛スピードの膨張」である。

    「膨張」は,座標の効果である。
    それは,特殊相対性理論に出てくる座標の効果 (「ローレンツ収縮」) と同じ類のものである。



     註: 遠ざかる速度が光速を超えるところの距離は,どのくらいか。
    宇宙は,毎秒r倍膨張しているとする。
    このとき距離dは,1秒で rd になる。
    この1秒に延びた距離は,rdーd。
    光が1秒に進む距離をcとすると,「延びの速さが光速を超える」の式は,
       rdーd>c
    よって,d>c/(rー1) の距離のところで光速が超えられるということになる。
    r−1=n-1 とおくと,その距離dはn光年の距離である。
    r倍/秒は,年ではr= (1+n-1) の約3×108 乗倍。
    これは,
       ≒ 1+n-1 ×3×108
    n=10k とおいて,つぎのようにまとまる:
       膨張が光速を超える距離が 10k 光年のとき,
       膨張率は 1+3×108-k 倍/年
    宇宙の果てまでは 138億光年だとか 470億光年だとかいっている。
    そこで仮に 100億光年の距離で光速を超えるとすると,k= 10 であり,宇宙の年膨張率は
       1+3×108-10 = 1.003
    これはいかにも大き過ぎる値であるから,天文学者が考えている宇宙の大きさでは光速を超える膨張は無いことになる。
    ただし,以上は距離比例的な膨張モデルであって,膨張モデルにはこれとは別に加速膨張モデルがある。 しかしどうであれ,膨張が光速を超えるかどうかは,問題にするようなことではない。
    繰り返し強調するが,「膨張」は,自分を原点にしたデカルト座標の効果である。