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同上, pp.233,234
水⽥の作⼟層は10-20cm の厚さがあり,作⼟層下部には鋤床(すきどこ)層とよばれる圧密層がある.
鋤床層は,農作業による圧密と代掻き後の濁水の浸透にともなう⽬詰まりによって⾃然に形成されるが,新規に水⽥を造成するときには,透水性を調節するためこれに相当する層を⼈為的な圧密によって作り出すこともある.
鋤床層は完全な不透水層ではなく,湛水したときには1 ⽇当たり10-30 mm の浸透が発⽣するように透水性を調節している.
これは⽇減水深とよばれる.
水が浸透することは,多量の灌漑水を必要とすることになるが,下層への溶存酸素の供給,灌漑水に溶存した養分の供給という点で利点がある.
湛水すると,⼟壌微⽣物の呼吸のため,作⼟層からは分⼦状酸素が消失する.
そうすると,
硝酸イオン,
4 価のマンガンイオン(⼆酸化マンガンなどの鉱物として存在),
3 価の鉄イオン(酸化鉄鉱物,水酸化鉄鉱物として存在),
硫酸イオン
などが順に,微⽣物の呼吸のための電⼦受容体として利⽤される.
つまりこれらの化合物が還元される.
⼀般に,分⼦状酸素が存在するような状態を酸化状態,消失して上述の⼀連の還元反応が進⾏した状態を還元状態とよぶ.
また,酸化状態であるような⼟層は酸化層,還元状態であるような⼟層は還元層とよばれる.
湛水によって作⼟層の⼤部分は還元的になるが,作⼟層の最上部数mm〜20 mm 程度の部分は,浸透水によって溶存酸素が供給されるため湛水期間を通じて酸化状態に保たれる.
硝酸イオンの還元によって,作⼟層からは硝酸イオンは消失し,分⼦状窒素や⼀酸化⼆窒素として⼤気中に出ていく.
この過程は脱窒とよばれる.
ついで,⼆酸化マンガン鉱物や酸化鉄鉱物,水酸化鉄鉱物の⼀部が溶解し,
が⽣成する.
この反応によって⼟⾊は灰⾊ないし⻘灰⾊を帯びるようになる.
硫酸イオンの還元が進⾏すると硫化物イオンが⽣成する.
硫化物イオンは,⼟壌溶液のpH が7 以下である場合には⼤部分は硫化水素(H2S)として存在し,硫化水素は⽣物にとっては猛毒である.
しかし湛水下の水⽥では硫化水素の毒性によってイネが障害を受けることはほとんどない.
それは,硫酸イオンの還元が進⾏し始める以前に2価マンガンや2価鉄イオンが⽣成しているため,⽣成した硫化物イオンは⾮常に溶解度の低い硫化鉄(FeS)として⼟壌溶液から除去されるからである.
⽣成した2価マンガンイオンや2価鉄イオンは,陽イオン交換しながら浸透水とともに下層に移動する.
褐⾊低地⼟の水⽥や,地下水位の低い灰⾊低地⼟の水⽥では,湛水中でも下層⼟は酸化的であるので,そこで再び酸化物,水酸化物として沈殿する.
鉄よりもマンガンの⽅が還元されやすく,したがって酸化されにくいので,酸化的下層⼟ではまず水酸化鉄鉱物が沈殿し,それよりも下層で酸化マンガンが沈殿する.
硫酸イオンが消失するような状態まで還元が進⾏すると,メタン⽣成菌による⼆酸化炭素や酢酸の還元とそれに伴うメタンの⽣成が始まる.
メタンの⼀部はイネの根から吸収され,イネの通気組織を通じて地上部に運ばれ葉⾯から⼤気に出ていく.
また浸透水とともに下層に運ばれたメタンは,酸化的な下層⼟で酸化される.
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同上, p.237
⼀般に水⽥では継続して何百年もイネの栽培がおこなわれるので,次第に作⼟の鉄およびマンガン含量は低下する.
この現象を水⽥の⽼朽化といい,⽼朽化した水⽥を⽼朽化水⽥という.
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