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和田信一郎『土壌学』, 9. 土の中の物質移動, p.139.
雨の一部は土に浸透していく.
もし土がある程度乾いている場合には,水の一部は土に保持され,残りが下方へ浸透する.
雨が止むと下方への浸透はすぐになくなる.
晴天が続くと表土からは蒸発によって水が失われるが,それを補うように下層から表層への水の移動が起こる.
また,植物は根から大量の水を吸収するが,吸収による減少分は周囲からの水の移動によって補充されるため,継続して水を吸収することができる.
土中の水は純水ではなく様々な溶質を溶解している.
植物は,水とともに溶存養分を吸収するが,実は硝酸イオンやカリウムイオンなど多量に必要とされる養分は,根の表皮の細胞膜に存在する分子ポンプを使って積極的に細胞内へ取り込んでいる.
このため,根の周辺の水の養分濃度は低下し,根から離れた高濃度部分からの拡散によって溶質が移動する.
つまり,土壌溶液の溶質は常に水の流れに乗ってのみ移動するというわけではない.
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同上, 9.1.1. 土の中の水の状態, pp.140.141.
乾燥した土に降雨があると,ごく初期には雨水は土の孔隙内に取り込まれ,下層へは移動しない.
孔隙が満たされると過剰の水は表流水として排水されたり,土の中の大きな孔隙を通じて下層へ移動したりする.
降雨が止むと,下層への水移動は徐々に少なくなり,1日もたつとほとんど移動しなくなる.
この時点では,土の小孔隙は水で満たされている.
つまり,この孔隙内の水は重力によって移動しない程度の,何らかの力で孔隙内に保持されているということになる.
降雨ののち晴天が続くと,表層からは蒸発によって水が失われる.
すると,下層から表層へ向かった水移動が生ずる.‥‥‥
土中の水は,重力に抗して静止していることもあるし,場合によっては重力によって下方に移動することもある.
また重力に逆らって下層から表層へ移動することもある.
さらに,植物根へ向かって水平方向に移動することもある.
このような水移動を支配する要因は何であろうか.‥‥‥
土中の水の動きを判断するときにも,そのエネルギー状態を考えることが便利である.‥‥‥
土中の水に関するこれまでの研究によって,土中の水のエネルギー状態に影響する主要な要因は,
重力,
圧力,
溶質の濃度,そして
微細孔隙への保持
等
であることが明らかにされている.
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同上, 9.1.4. 溶質の存在, p.143
土壌中の土壌溶液の溶質濃度が異なれば,水は溶質濃度の低いところから高いところへ移動する.‥‥‥
溶質の存在による水のエネルギーの変化分は溶質ポテンシャル(solute potential)とよばれる(浸透ポテンシャルとよばれることもある).
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同上, 9.1.5. メニスカスを伴った微細孔隙への保持, p.144
土の中の間隙は,一定直径の毛細管のように単純ではない.
しかし,そこに保持された水は同じような機構でエネルギーが低下した状態になる.
自由水を基準としたときの,微細孔隙内への保持によるエネルギー変化分はマトリックポテンシャルとよばれている.
マトリックというのは土壌マトリックスの微細孔隙構造からきている.
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同上, 9.1.6. 土の種類や水分状態と,土壌水ポテンシャル成分, p.145
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