Up 政策 :「競争原理の導入」 作成: 2018-09-03
更新: 2018-09-03


       2018-09-03 読売新聞
    重症患者の冬眠,台風進路変更‥‥
    夢の技術 開発競争
    挑戦チームを政府公募へ
     政府は来年度から、日本発の革新的な技術開発を推進するため、複数の研究者らに予算を配分し、同じ開発テーマの成果を競わせる新制度を始める方針を固めた。10〜20年後をめどに、高齢化対策や防災など、政府が定めた開発テーマに沿った新技術の実現を目指す。
     新制度は「ムーンショット型研究開発制度」と命名され、内閣、文部科学、経済産業の3府省合同で実施する。来年度予算の概算要求で内閣、文科両府省が関連予算に約60億円を計上した。今後、経産省分予算が上乗せされ、要求総額は100億円を超える見通しだ。
     開発のテーマは「人々の関心をひきつける斬新で野心的な目標」(政府関係者)となる。例えば、〈1〉仮想現実の映像の中で故人を登場させ、本人がいるかのように自然な会話ができる技術〈2〉台風の洋上の進路を操作して日本上陸を回避する技術〈3〉重症患者を冬眠のように1週間程度、人工的に体の活動を休止させ、治療態勢が整うまで延命させる技術──などだ。
     制度は、まず各府省からテーマを公募し、新たに設置予定の有識者会議でテーマを選定するところから始まる。テーマごとに、国の研究機関や大学、企業などに参加を呼びかけ、プログラム・マネジャー (PM) と呼ばれるチームリーダー役の研究者を公募。PMは1テーマにつき2〜3人置く。PMは約半年かけて開発計画を策定。開発チームの拠点となる研究機関選定や人材採用などの権限が与えられる。政府が拠出する予算も、計画に基づいてPMと調整して決める。
     研究が2年経過した時点で、政府は有識者会議などの助言を受けながら、それまでの実績や独創性、実現性などを評価し、支援を継続するかどうか決める。成果が出なければ、支援中止や他のチームとの併合などの対応が取られる。
     政府関係者によると、複数の開発チームに成果を競わせる制度は、米国などでは活用されているが、日本では極めて珍しいという。政府は、3年後の実用化や商品化を目指して、1年ごとに実績などを評価する「短期型」の制度もあわせて導入する方針だ。
     米国や中国、欧州連合(EU) 諸国では、政府主導で革新的な技術開発を推進する制度があり、米国ではインターネットや全地球測位システム(GPS) などの実績がある。
    米中に遅れ巻き返し
     政府が最先端技術の開発で競争原理を導入するのは、研究のスピードアップと、厳しい財政状況の中で効率的な予算配分につなげることが狙いだ。
     最先端技術を巡っては、米国や中国が政府主導で、猛烈に研究開発を進めている。米国は脳の神経伝達の仕組みを全て解明してコンピューター開発などに応用する「脳のアポロ計画 (ブレーン・イニシアチブ)」を打ち出し、中国も量子暗号技術を使った絶対に盗聴されない通信の実用化を目指す。いずれも実現すれば、社会や産業での競争のあり方を一変させる「ゲーム・チェンジャー」となり得る技術とされる。
     日本は最先端技術開発の出遅れ感が否めない。予算の使い道の監視は必要だが、斬新な研究に予算が配分されれば、幅広い研究者の育成にもつながりそうだ。世界を驚かす技術の誕生につながるよう期待したい。

    ムーンショット
    「困難だが実現すれば大きな成果が得られる壮大な目標への挑戦」を意味する言葉。本来は、英語で「月へのロケット打ち上げ」を表すが、1961年に米ケネディ大統領(当時)が打ち出した月への有人宇宙飛行計画「アポロ計画」で、人類初の月面着陸を成功させたことにちなんで使われるようになった。 


    国にとって「テクノロジー」の意味は,国の「競争力」である。
    国は,「自国発の革新的な技術」の開発推進を政策にする。

    「競争力」は,つぎの二つでなる:
      1. グローバル経済における競争力
      2. 武力


    自由主義政治の政策は,他力本願である。
    笛吹きの役回りを己に任じ,笛の音につられてひとが踊り出すことを期す。

    曲は,一つしか持ち合わせていない。
    「競争原理の導入」である。

    かくして「国立大学の法人化」「競争的資金」といったものこれまでにあり,そしてこの度は「ムーンショット型研究開発制度」である。


    競争原理の導入は,技術開発推進の方法にはならない。
    ひとは,<しのぎ>を考えるようになる。

    そしてそもそも「最先端技術を巡っては、米国や中国が政府主導で、猛烈に研究開発を進めている」は,「競争原理の導入」がこれの内容なのではない。

    ただし,「競争原理の導入」の言に対し,これの<馬鹿の一つ覚え>を嗤うというのは,筋違いである。
    実際,この言には,支出削減の意図がある。
    国の経済は,収支で見れば破綻している。
    研究への予算配分は,削減していかねばならないのである。

    また,「夢の技術」の言に対し,これの<浅知恵>を嗤うというのも,筋違いである。
    実際,研究資金配分の肝心は,これが導く経済効果である。
    商品経済が成果に向かうプロセスでないように,商品経済下の技術開発推進は成果に向かうプロセスではない。
    求められるものは,「好景気」である。

    競争原理の導入で,ひとは<しのぎ>にあくせくするようになる。
    そしてこれこそが,成果なのである。
    実際,これが「好景気」の形である。


    競争原理の導入は,技術開発推進の方法にはならない。
    しかしそれは,失敗ではない。
    競争原理の導入の成果は,《ひとが<しのぎ>にあくせくする》という形の「好景気」の実現である。

    これに対し無意味を嘆くのは,筋違いである。
    商品経済は,無意味である。
    <生きる>は,無意味である。

    元来無意味なものに意味をつけることを,「幻想」という。
    その意味が集団の員に共有される意味であるとき,「共同幻想」という。
    「競争原理の導入」「夢の技術」は,共同幻想である。
    そしてマスメディアは,共同幻想の旗振りが役回りである:
     
    日本は最先端技術開発の出遅れ感が否めない。予算の使い道の監視は必要だが、斬新な研究に予算が配分されれば、幅広い研究者の育成にもつながりそうだ。世界を驚かす技術の誕生につながるよう期待したい。