Up 「民族主義」 作成: 2018-09-30
更新: 2018-09-30


    文化A圏の中に文化Bが入ってくる。
    「入ってくる」は,「物と人が入ってくる」である。

    Bは,経済性 (生活効率・生産性) においてAに優っていた。
    そこで,Aを捨てBに転じる者が続出する。

    A者とB者は,生活圏で争うことになる。
    B者はA者の生活場所を侵そうとする。
    A者は自分の生活場所を守ろうとする。

    ここでBは,武力においてもAに優っていた。
    このため,B圏はA圏を駆逐していくことになる。
    現象的には,《A圏とB圏の境界線が,これまでA圏であったところに食い込んでいく》である。
    境界の移動は,《A者がBに転向する》と《A者がB者から逃げる》の両方である。


    B圏の為政者は,A者に対する自分の優越を誇って,B圏駆逐の戦いを「蝦夷征伐」と称する。
    「蝦夷」とは,蔑視する異文化民に対する蔑称である。

    B圏の学者は,「B民族」の概念を立てる。
    「歴史的経緯」「進化」という考え──要するに,「時間」の考え──をまだ持てないためである。
    実際,「時間」を考えずに「B民族」を言い出したら,AからBにいま転向した者は「B民族」である。
    その学者については,「彼からn代溯った祖先からB民族」の言い方をすることになる。

    この学者を嗤うことはできない。
    歴史学・進化論が学校で教えられているはずのこの時代にも,「わが民族」を唱えたり「日本人論」を立てたりする者は,後を絶たない。
    事程左様に,ひとは「時間」を考えることを不得手としている。