Up 「競争」の単純思考 (競争主義) 作成: 2020-11-28
更新: 2020-11-29


    ハイエク (1978) は,つぎの書である:
      当時のユーロ構想に対し,彼は「これはうまくいかない」の思いをもつ。
      そこで,通貨はどうであるのがよいかを提案する。
    通貨のよいあり方として彼が提案するのは,"concurrent currencies" である。
    これは,"conpeting currencies" ということであり,そしてこの先には "deinternationalisation of money" が展望される。

    この提案は,彼の自由主義から導かれるものである。
    即ち,つぎのようになる:
      ユーロは,構成員に凸凹があるところに,一律の規範を措くものである。
      これは,うまくいかない。
      行うべきは,員それぞれの規範を競合させることである。
      そうすれば,自ずと最適な規範に至る。


    ハイエクの自由主義は,競争至上主義的な「新自由主義」を生み出してしまうように,ひどく単純である。
    その単純さは,「階層/次元」の考えが無い/弱いことの単純さである。
    "concurrent currencies", "conpeting currencies" の "concurrent", "conpeting" は,"currencies" の階層/次元には収まらない。
    実際,人為的な "concurrent", "conpeting" は,不都合なパワーの支配や系の破壊を招くのが相場である。

    生態系の「競争=自然選択」は,複雑である。
    そこには,多様な階層・次元が見出される。
    生態系の頂点にいることは,他のすべての者に勝っていることではない。


    ハイエクの自由主義の単純さを見て取るためには,アダム・スミスの「神の見えざる手」の自由主義を引けば足る。
    生態系の安定相を説明することは,人の能力を超える。
    「神の見えざる手」を言うしかないわけである。
    人の系は,この生態系である。

    「神の見えざる手」を想えない者は,単純な競争を考える。
    単純な競争は,系の破壊にしかならない。
    実際,市場原理主義の「規制緩和」の後に続いたのは,これが壊してしまったものを取り戻すステージであった。


  • 引用・ 参考文献
    • Hayek, F.A. (1978) : Denationalisation of Money ─ The Argument Refined
        The Institute of Economic Affairs, 1978.
        川口慎二[訳]『貨幣発行自由化論』, 東洋経済新報社, 1988年.