Up 「学者」の実際 作成: 2021-10-09
更新: 2021-10-09


    ひとは,生業をして生活の糧を得ている者と,そうでない者がある。
    前者が,「現役」である。

    生業は,物の売買である。
    物の売買は,手練手管をいろいろに発揮するところの,マネーゲームである。
    現役とは,マネーゲームプレーヤーを務めていることである。

    このことに例外は無い。
    特に「学者」も,マネーゲームプレーヤーである。
    このマネーゲームのルールは,学会がつくる。
    学会は,ルールを自由につくるわけではない。
    世界──マネーゲームの大きな系──のダイナミクスが,ルールを一定の形にする。

    こうして,つぎのようになる:

      宮元啓一 (2015), pp.8-11.
    わが国の仏教学者のほとんどは、僧籍にある人か、篤信家 ‥‥‥
     僧籍にある学者は、みずからが属する宗派の教義に背反するわけにはいかず (背反するようなことをしたら「破門」となり、たちまち家族もろとも路頭に迷うことになる)、結局は自派の教義をもって「正しい仏教」だとする観点から免れない。
    日本仏教はすべて大乗仏教の流れを汲むものであるが、大乗仏教が成立する以前の古いインド仏教を研究するさいにも、僧籍にある一部の仏教学者たちは、「解釈学」と称して、自派の教義に強引に引きつけようとする。 解釈学という方法は、キリスト教神学に取り入れられ、自派に都合のよいように聖書を解釈するさいの手段とされてきた。 これを仏教学にも応用しようというのであるが、これでは仏教学は、知性にすべてを委ねる学問ではなく、信にすべてを委ねる一種の神学の域を出ないものとなる。
    いや、それどころか、仏教学は、「正しい信」にもとづき「正しい仏教」を宣揚する神学でなければならないとまで公言する仏教学者が大手を振っているのが現況である。
     篤信家は、かならずしも特定の宗派への帰属意識が強いとはかぎらないが、強固な信 (信念でもある) にもとづき、これこそがみずからの信 (信念) にふさわしい正しい仏教であるという態度で仏教に接する。‥‥‥
     いずれにしても、わが国で仏教学というのは、ほとんどの仏教学者にとって、「正しい仏教」の追究であることになる。
    かくして、「正しい仏教」がいくつも並び立ち、‥‥‥
     これまで、わが国の仏教学者たちは、口をそろえて、文献学を錦の御旗にして、ゴータマ・ブッダが何を説いたのか (金口の説法とは何か) は、確定できないと強調してやまない。‥‥‥
    ‥‥‥金口の説法は確定できないと、なぜあれほどまでに執拗にわが国の仏教学者たちは口をそろえて強調するのか。‥‥‥
    それは、ゴータマ・ブッダが何を説いたかがわかってしまうと、多くの仏教学者は困るからである。
    つまりどういうことかというと、先にも述べたように、わが国の多くの仏教学者は、みずからの信に合致する「正しい仏教」を追究しているのであるが、その「正しい仏教」が、「最初の仏教」によって粉砕されることを怖れているのである。
    最初の仏教はわからないのであると、いかにも学問的であるかのような装いをもって強固な防御線を張っておけば、かれらの「正しい仏教」は安泰なのである。


      日本文化人類学会 (2009)
    本年7月、アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会による報告書が内閣官房長官に提出されました。この報告書について、日本文化人類学会理事会の議を経て、以下の見解を表明します。
    1.  日本におけるアイヌ政策の推進に向けて、特定の立場に偏ることなく、公平かつ客観的な形でこのような報告書が出されたことを、世界の民族と文化を研究する者として、私たちは高く評価する
    2.  アイヌ民族について、1989年に日本民族学会(2004年に日本文化人類学会に学会名改称)が「アイヌ研究に関する日本民族学会研究倫理委員会の見解」を表明し、1996年には当時の内閣官房長官宛に日本民族学会の理事会の名において「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会報告書についての見解」を表明した。また、2008年には、「政府はアイヌの人々を独自性を有する先住民族として認めること」などを求める国会決議に向けて、日本文化人類学会会長名でアイヌ民族の権利確立を考える議員の会宛に「日本文化人類学会がこれら二つの文書で表明した立場をそのまま引き継ぎ、堅持していること」を表明した。今回の報告書の中で強調されているアイヌの人々が先住民族であるとの基本的認識の中に、私たちがこれまで表明してきた見解が十分に生かされていると考える。
    3.  アイヌ政策の展開に当たっての基本的理念として、(ア)アイヌのアイデンティティの尊重、(イ)多様な文化と民族の共生の尊重、(ウ)国が主体となった政策の全国的実施、の3つの柱が立てられているが、世界各地の先住民族についての知見を蓄積してきた私たちは、これらの理念が世界の様々な先住民族政策の理念と比較してもきわめて妥当なものであり、積極的に支持すべきものであると考える。また、これらの理念に沿った形で一刻も早く具体的な政策が推進されることを私たちは希望する。
    4.  具体的な政策の中で、私たちの活動と最も強い結び付きを持つ「教育」と「研究」が取り上げられている。国民の理解の促進のため「教育」活動に関しては、報告書において提言されているように、初等・中等教育においてアイヌの人々も含めた先住民族に関する理解の促進を図るべきである。私たちは、世界各地の先住民族の過去と現在について研究を進めて来た「文化人類学」を公民免許状取得上履修を要する専門科目に追加することを要望してきた。また、先住民族に関する知見が凝集された「民族誌」を地理歴史免許状取得上履修を要する専門科目に追加することを要望してきた。教育の場でアイヌの歴史や文化についての正しい理解を身につけさせるためには、まず第一に、このような方策等によって、教育を担当する教員自身がアイヌの人々が先住民族であるという基本的認識の持つ意味を十分に理解する必要があると考える。「研究」に関しては、アイヌに関する総合的かつ実践的な研究の推進・充実を図るために、アイヌ研究者養成のために積極的な策を講じることが必要である。そうした研究者には必ずアイヌの人々が含まれなくてはならない。特に、アイヌ文化の展示を行うと同時に、研究者養成機関としての性格もあわせ持つ教育研究拠点を設置し、この拠点を中心に、アイヌ研究に取り組む既存の研究機関を取り込んだ形で研究ネットワークを構築して、研究体制の拡充・強化を図ることが緊急の課題である。また、研究を推進する上では、報告書において提言されているように、アイヌの人々との協働が必要不可欠であると考える。
    5.  この報告書で取り上げられたさまざまな問題について、私たちも今後もさらに検討を加え、議論を深めていきたいと考える。


    学会とは


  • 引用文献
    • 宮元啓一 (2015) :『ブッダが考えたこと 仏教のはじまりを読む』
        角川ソフィア文庫 (春秋社 2004年刊の加筆修正)
    • 日本文化人類学会 (2009) :「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会報告書についての見解」, 2009