Up 「個体」の一般的定立は成らない 作成: 2015-01-01
更新: 2015-03-04


    これまで「個体」の語をふつうに用いてきた。
    しかし,以下論ずるように,実際には「個体」は生物一般のこととしては定立できない。
    翻って,「個体」が立てられるときは,特定の生物種を囲いそれの「個体」を考えていることになる。


    ある種の樹木は,枝を折って土にさせば,根を出し,個体として育っていく。
    もとの木にとって,この個体はどんな身分になるか?
    「分身」か?

    株立ちの木を,根元で半分に切り分け,それぞれを独立に生かす。
    もとの木にとって,この2つの個体はどんな身分になるか?
    「分身」とは言えない。(自分はもう存在しないから)
    「自分の分裂」か?

    動物でも,同様の問題が立つ。
    例えば,プラナリア:
      「プラナリア」(Wikipedia)
      「前後に3つに切れば、頭部からは腹部以降が、尾部側からは頭部が、中央の断片からは前の切り口から頭部、後ろの切り口から尾部が再生される」
      「ある学者がメスを使い100を超える断片になるまで滅多切りにしたが、その全ての断片が再生し100を超えるプラナリアが再生したという逸話がある」

    単細胞生物は,細胞分裂して増殖する。
    細胞分裂は,「自分の分裂」か?
    それとも,「自分が終わって新しい二つの個体が発生」か?

    また,「一卵性双生児」。
    受精卵の最初の分裂において,2つの細胞が分離し,それぞれが個体として胎内成長して生まれてくるのが,一卵性双生児である。
    双生児は,別々の個体になる。
    よって,このときの「受精卵の分裂」は,「自分が終わって新しい二つの個体が発生」の方にしなければならない。

    実際,生物学は,単細胞生物の細胞分裂を,「無性生殖」と呼んでいる。
    二つの個体が誕生したという解釈である。
    「自分が終わって新しい二つの個体が発生」であって,「自分の分裂」ではない。

    2分株分けは,単細胞生物の細胞分裂の形に近い。
    となると,「自分の分裂」ではなくて,「自分が終わって新しい二つの個体が発生」である。

    では,「分身」と「自分が終わって新しい二つの個体が発生」は,その間に区切りが立つか?
    「分身」と「自分が終わって新しい二つの個体が発生」は,グラデーションで連続する。

    これは, 生物一般では「個体」の定立が成らないということである。
    翻って,「個体」の概念が立てられるときは,特定の生物種を囲いそれの「個体」を考えていることになる。