Up 複雑系 : 要旨 作成: 2019-06-12
更新: 2019-06-12


    自然は複雑である。

      ここで,人の営みの系──大小様々な系──も自然のうちである。
      人の対立項のように自然を立てる者が「エコロジスト」として存在しているが,その考えは間違いである。 注意すべし。

    複雑な系の探求は,科学になれない。
    実際,「科学になれない」が,このときの「複雑」の意味である。

    人文科学は,この手の探求ということになる。
    このうちには,己の合理化に「実践学」のことばを用いるものがあるが,それは<複雑>をまるでわかっていないことを示すだけである。


    <複雑>の内容は,漠然・雑然・偶然である。
    ここにちょうどよい素材が出て来た。
    金融審議会報告書の「老後2000万円」である。

    ひとが「平均的生活」としているものは,支出が年金収入を超える。
    この生活の持続を可能にするために必要な貯蓄額が「2000万円」というわけだ。
    翻って,年金収入に対し赤字生活を送っている者は,この額の貯蓄があり,これを以ていまの赤字生活でだいじょうぶとしている者ということになる。

    当たり前の内容に過ぎないが,これがオモテに出ると波を起こすことになる。
    「老後2000万円」は,「安心年金は嘘」「倹約して貯蓄せよ」を含意する。
    「安心年金は嘘」は「衆参同時解散は難しい」を含意する。
    「倹約して貯蓄」は「消費落ち込み」を含意し,「消費落ち込み」は「アベノミクス破綻」を含意する。
    「消費落ち込み」はまた「消費税率引上げは無理」を含意し,「消費税率引上げは無理」は消費増税法に違反する。内容も「リーマン級」とは違うから,引上げ先延ばしの大義が立たない。

    これではひっちゃかめっちゃかの政局になるので,政府はなにがなんでも蓋をせねばならない。
    無かったことにはできないので,「報告書とはしない・受け取らない」で乗り切ることにした。

    さて,これがこの先どうなるかを展望することはできない。
    展望とは論理的作業だからである。
    対象となる系はまったくの論理的矛盾の系であり,そして偶然の系である。

    偶然の系では,「実践」は偶然の一内容になるだけである。
    実際,「実践」とはつねに独り善がりの実践のことである。

      「実践」を唱える者──正義の者──の困った点は,自分がやっていることの<はた迷惑>の面がわからないことである。