Up 皇国論 (国粋主義) 作成: 2018-09-23
更新: 2018-09-23


       本居宣長『玉くしげ』
    まことの道は、天地の間にわたりて、何れの國までも、同じくたゞ一すぢなり、然るに此道、ひとり皇國にのみ正しく傳はりて、外國にはみな、上古より既にその傳來を失へり、
    それ故に異國には、又別にさまざまの道を説て、おのおの其道を正道のやうに申せども、異國の道は、皆末々の枝道にして、本のまことの正道にはあらず、
    たとひこゝかしこと似たる所は有リといへども、その末々の枝道の意をまじへとりては、まことの道にかなひがたし、
    いでその一すぢの本のまことの道の趣を、あらあら申さむには、まづ第一に、此世ノ中の惣體の道理を、よく心得おくべし、
    其ノ道理とは、此天地も諸神も萬物も、皆ことごとく其本は、高皇産靈神神皇産靈神と申す二神の、産靈のみたまと申す物によりて、成出來たる物にして、世々に人類の生れ出、萬物萬事の成出るも、みな此御靈にあらずといふことなし、
    されば神代のはじめに、伊邪那岐伊邪那美二柱大御神の、國土萬物もろもろの神たちを生成し給へるも、其本は皆、かの二神の産靈の御靈によれるものなり、
    抑此産靈の神靈と申すは、奇々妙々なる神の御しわざなれば、いかなる道理によりて然るぞなどいふことは、さらに人の智慧を以て、測識べきところにあらず、
    然るを外國には、正道の傳へなき故に、此神の産靈の御しわざをえしらずして、天地萬物の道理をも、或は陰陽八卦五行などいふ理窟を立て、これを説明さむとすれども、これらは皆、人智のおしはかりの妄説にして、誠には左様の道理はあることなし、
      ‥‥
    そもそも外國には、かやうに實もなき物をのみ尊みて、天照大御神の御陰の、よに尊く有がたき御事をば、しらずしてあるは、いとあさましき事なるに、皇國は格別の子細あるが故に、神代の正しき古説の、つまびらかに傳はりて、此ノ大御神の御由來をもうかゞひ知て、これを尊み奉るべき道理をしれるは、いといと難有き御事にぞ侍る、
    さて皇國は格別の子細ありと申すは、まづ此四海萬國を照させたまふ天照大御神の、御出生ましましし御本國なるが故に、萬國の元本大宗たる御國にして、萬ヅの事異國にすぐれてめでたき
      ‥‥
    さてかくのごとく本朝は、天照大御神の御本國、その皇統のしろしめす御國にして、萬國の元本大宗たる御國なれば、萬國共に、この御國を尊み戴き臣服して、四海の内みな、此まことの道に依り遵はではかなはぬことわりなるに、今に至るまで外國には、すべて上件の子細どもをしることなく、たゞなほざりに海外の一小嶋とのみ心得、勿論まことの道の此ノ皇國にあることをば夢にもしらで、妄説をのみいひ居るは、又いとあさましき事、これひとへに神代の古傳説なきがゆゑなり、