Up 常緑針葉樹の稚樹は雪の中で死ぬ 作成: 2025-04-21
更新: 2025-04-21


    生物の「生きる」は,「自分を食い物にしようとする生物に抵抗する」を含む。
    「生きている」は,「自分を食い物にしようとする生物に対する抵抗力をもっている」を含む。

    自分を食い物にする相手が定かに見えないとき,人はこの「食い物にされる」を「疫」と呼んできた。
    この場合「抵抗力」は,「免疫力」のことばになる。
    科学は,その定かに見えないものを明らかにしようとし,ウイルス,細菌,菌類,微小動物等のカテゴリーの中にそれらを定位してきた。


    抵抗力/免疫力には,「スケールメリット」というのがある。
    即ち,体が大きい方が,抵抗力/免疫力が強い。
    なぜかというと,体が大きいことは,防衛線 (面) が相対的に小さいことだからである:

      相似な2つの立体は,相似比が \( 1 : n \) であるとき,体積は \( 1 : n^3 \) ,表面積比は \( 1 : n^2 \)。
      よって「単位体積あたりの表面積」の比が,
        \[ 1 : \frac{ n^2 }{ n^3 } = 1 : \frac{ 1 }{ n } \]
      となる。

    樹木を食い物にしようとする生物のうちに,「木材腐朽菌」というのがある。
    樹木は,木材腐朽菌を呼び込むことになる。
    樹木の「生きている」には,「木材腐朽菌に対する免疫力をもっている」が含まれる。

    それでも,稚樹は免疫力が弱い。
    その1つの理由が,上に述べた「単位体積あたりの表面積」である。
    稚樹は,おとなの樹と比べて「単位体積あたりの表面積」が極端に大きいのである。


    しかし,稚樹だから免疫力が弱いというのでは,その樹木の種はとっくに絶滅している。
    稚樹とはいえ,普通であればやられないだけの免疫力は,持っていることになる。

    ここに,やられてしまう状況がある。
    その状況が,「雪に埋もれて越冬」。
    要点は,「雪の中」。

    雪は,断熱材になる。
    北海道の冬は厳寒で,土壌が凍る。
    この状態では,腐朽菌は活動できない。
    しかし,雪の中は 0°Cくらい。
    雪の中だと,腐朽菌は活動できる。

    この雪の中に稚樹があったらどうなるか。
    稚樹は越冬モードであり,免疫力を落としている。
    腐朽菌がこれを狙う。

    稚樹は,腐朽菌が幹(枝) の中に浸入したら,死ぬ。
    ここで,落葉広葉樹と常緑針葉樹の間に差がつく。
    常緑針葉樹の稚樹は,葉の気孔が浸入口になる。
    落葉広葉樹は,葉を落とした口をしっかり固めている。
    格好の餌食にされるのは,常緑針葉の稚樹。

      この内容は, 「暗色雪腐病菌 (Racodium therryanum)」の標題で主題化されている。
      しかし「暗色雪腐病菌」は,Racodium therryanum の括りで収まるわけではない。


    こういうわけで,北海道の森林 (落葉広葉樹と常緑針葉樹の混生林) は,多雪地では針葉樹の次世代への自然更新が難しい。
    北海道にも,雪の多いところと少ないところがある。
    そして寡雪地は,針葉樹の次世代への自然更新が多雪地ほどには難しくないことになる。
    そこで森林遷移も,多雪地と寡雪地では自ずと様相が違ってくることになる。