Up シロヤナギとシダレヤナギの比較 作成: 2012-05-17
更新: 2012-06-02


    シロヤナギとシダレヤナギは,同じシダレヤナギ節に属し,樹皮・冬芽・花序・葉がよく似ている。
    実際, の間の見分けが難しい。

    成葉によるシロヤナギとシダレヤナギの見分けは,つぎのようになっている:
      裏面が,シロヤナギは絹毛が密生,シダレヤナギは無毛。
    また,『北海道樹木図鑑』(亜璃西社) のシロヤナギの記述には,
      「若葉は両面に白絹毛あり」
    とある。
    しかし,シロヤナギも,多くの葉の裏面は無毛に近い (毛がまばらにあるといった程度): そして,「毛がまばらにある」のは,シダレヤナギの葉の裏面も同様である:
    「裏面は毛が密生」の意味は,「葉のすべてがこうなっている」ではなく,「枝の一部にこういう葉もある」である。
    つぎは,同じ小枝についている「裏面は無毛 (毛がまばら)」の葉と「裏面は毛が密生」の葉の例:
    また,『樹に咲く花─離弁花〈1〉』(山渓ハンディ図鑑 3,山と渓谷社) でのシロヤナギとシダレヤナギの記述に基づけば,子房における毛の生え方よって,シロヤナギとシダレヤナギの見分けがつぎのようにできることになる:
      シロヤナギでは,白色の軟毛が密生。
      シダレヤナギでは,基部にかすかに毛がある。
    しかし,実際に観察してみると,シロヤナギの「白色の軟毛が密生」は程度問題であるようにも見えてくる:

    このように混沌としてくるが,この混沌模様は,学術の上で「シロヤナギの典型」「シダレヤナギの典型」が立てられていることを示唆している。 現前の「個の多様性」は,どうも,この「典型」の枠には収まらないようである。



    参考1
    以下は,『ヤナギ科植物の系統・分類・学名』(北海道大学総合博物館第11回公開シンポジウム, 2005-04-16) の「Appendix2:日本のヤナギ属(Salix)検索表」から,シロヤナギとシダレヤナギを含む項目を引用したものである:

    1. 芽鱗は概ね縁で合着する。
      雄蕊は (1-)2,時に3(-5)。
      雌花の苞はたいてい宿存する。
      高木または低木。
      1. 尾状花序は前年の側枝にする。
        雄蕊は無枝または有枝。
        葉身頂部はしばしば鋭尖形。
        山地や低地に生え,低木または高木になり直立または斜上する。
        1. 葉身は線形から狭卵形-楕円形,鋭尖形。
          尾状花序の基部には葉を伴う。
          苞は単色(淡黄緑色),軟毛で覆われる。
          雄花は2, 時に1で,腺体がある。   ‥‥‥‥‥‥(V. ヤナギ亜属)
          1. 雄蕊は2。雌蕊は無枝。     ‥‥‥‥‥‥(V-ii. シダレヤナギ節)
            1. 小枝は無毛で下垂する。
              雌蕊はほぼ無毛。
              栽培種。
              1. 小枝はまっすぐ。
                雌花には腺体1。‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 8. シダレヤナギ
            1. 小枝は短い軟毛で覆われるか無毛で下垂しない。
              雌蕊は密集した軟毛に覆われる。
              自生種。
              1. 葯は黄色で花糸は離生。
                葉身はたいてい 10cm より短い。‥‥‥‥ 12. シロヤナギ

    これによれば,シロヤナギとシダレヤナギを見分ける規準は,つぎに限られる:
      1. 小枝の毛と垂れの具合
      2. 雌蕊の毛の具合
    すなわち,
     
    シダレヤナギ 小枝は無毛で下垂する。
    雌蕊はほぼ無毛。
    シロヤナギ 小枝は短い軟毛で覆われるか無毛で下垂しない。
    雌蕊は密集した軟毛に覆われる。

    しかし,「小枝の毛と垂れ」は,シロヤナギとシダレヤナギの両者において,程度問題である: 「雌蕊の毛」も程度問題である: そして,上の規準に従えば,葉はシロヤナギとシダレヤナギを見分ける手がかりにしてはならないもの,ということになる。

    こういうわけで,わたしの場合,「シロヤナギ」「シダレヤナギ」の見分けの問題は,「シロヤナギ」「シダレヤナギ」の指しているものをそもそも捉えていないという,「見分け」を言う以前のレベルの問題なのである。



    参考2
    『樹に咲く花─離弁花〈1〉』(山渓ハンディ図鑑 3,山と渓谷社) の中のシロヤナギとシダレヤナギの記述を,対照表の趣きに整理してみた:

    シロヤナギ シダレヤナギ
    樹形 高さ15〜20m, 直径30〜100cm になる。 高さ8〜17 m, 直径10〜70cm になる。
    樹皮 淡灰褐色で,縦に割れる。
    裸材に隆起条は無い
    灰褐色で,縦に割れる。
    裸材に隆起条は無い
    新枝は,緑褐色
    無毛
    小枝の分岐点で折れやすい
    新枝は,褐緑色で,なめらか
    無毛
    冬芽 花芽は,淡褐色で,長さ約5mm の卵形 花芽は,淡褐色で,長さ約 4mm の卵形
    葉身は,長さ5〜11cm, 幅1〜2cm の線形
    縁には,鋭い小さな鋸歯がある。
    新葉の縁は巻かない。
    裏面は,粉白色で,絹毛が密生する
    葉柄は,長さ2〜8mm,軟毛が生える。
    葉身は,長さ8〜13cm, 幅1〜2cm の線形
    縁には,浅い細かな鋸歯がある。
    新葉の縁は巻かない。
    裏面は,粉白色で,無毛
    葉柄は,長さ 5〜10 mm,軟毛が生える。
    葉の展開と同時に開花する。
    花序は,長さ2.5〜4cm,幅8〜9mm。
    雄しべは,2個。
    花糸は,離生
    花糸の基部に,黄色の腺体が2個ある。
    葯は,黄色。
    苞は,淡黄緑色。
    苞の両面とも基部に軟毛がある。
    葉の展開と同時に開花する。
    花序は,長さ2〜2.5 cm,短い柄がある。
    雄しべは,2個。
    花糸は,途中まで合着
    花糸の基部に,黄色の腺体が2個ある。
    葯は,黄色。
    苞は,卵状楕円形で,淡黄緑色。
    苞の外面の基部に毛がある。
    葉の展開と同時に開花する。
    花序は,長さ約3cm。
    子房には,白色の軟毛が密生する
    腺体は1個,ときに2個。
    苞は,淡黄緑色。
    苞の両面とも基部に軟毛がある。
    柱頭は,外側に曲がる。
    葉の展開と同時に開花する。
    花序は,雄花序よりやや小さく,長さ1.5〜2 cm。
    子房は,無枝で狭卵形,基部にかすかに毛がある
    腺体は1個。
    苞は,卵状楕円形で,淡黄緑色。
    苞の外面の基部に毛がある。