Up 道徳壊乱に進むのは,教育機関も同じ 作成: 2007-07-21
更新: 2007-07-21


    競争社会は,生き残り社会となり,そして道徳壊乱社会になる:

    1. 競争の行為は自分本位の行為になり,既存の規範/モラルを逸脱・すり抜ける行為になる。

    2. 競争は敗者をつくる。生き残り競争の「敗者」とは,「死なねばならない者」のこと。しかし,だれも死にたくはない。しぶとく生き残ろうとする。
      「負け体なのに生き残る」形は,「ズルをする」──すなわち,自分本位になって,規範/モラルを逸脱・すり抜ける。


    道徳壊乱に進むのは,教育機関も同じ:

    例1. 私立高校での合格実績水増し
    (読売新聞, 2007-07-20)
    「73人合格」実は受験生1人、大阪の私立高が実績水増し

     大阪市住吉区の私立●●●●高校(●●●校長、生徒数約1500人)が2006年度の大学入試で、成績が優秀だった1人の男子生徒に志望と関係のない学部・学科を多数受験させ、合格実績を事実上水増ししていたことがわかった。

     関西の有名4私立大(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)の計73学部・学科に出願しすべて合格。受験料計約130万円は同校が全額負担していた。大学入試センター試験の結果だけを利用して合否を判定する入試制度を利用したもので、合格発表後、生徒側に激励金名目で5万円と、数万円相当の腕時計を贈っていた。文部科学省は事実関係を調査する方針。

     関係者などによると、同校は5年前、4私大などを受験する生徒の受験料を負担する制度を設けた。規定は非公開で一部生徒だけに告げられる。

     73学部・学科に合格した生徒には、センター試験直前の昨年1月、担当者が説明。生徒は国公立大が第一志望だったが、4私大の計5学部・学科の一般入試の受験も希望した。その際、「学校の判断でほかの学部・学科にも出願していいか」と持ちかけ、さらに計68学部・学科に出願手続きをした。生徒は理系志望だったが、出願先には文系の学部・学科も含まれていた。

     結果は、すべて合格。生徒は結局、第一志望の国公立大に合格し、進学した。

     06年度、同校は4私大の合格者数を延べ144人と公表しているが、半数以上はこの生徒が1人で積み上げたものだった。

     読売新聞の取材に対し、同校の●●●●副校長は「大学合格実績がアピールポイントなのは否定できず、ほかの学校が延べ人数で表示すれば、うちだけ実数というわけにはいかない」と話している。

    (固有名の伏せ字と傍線は,筆者による)


    例2. 学校別順位を上げるために,学力テスト不正
    (読売新聞, 2007-07-21)

    足立区の学力テスト不正──ゆがんだ教育競争
    学校別順位公表 予算にも影響
    正解誘導の校長は「改革の象徴」


    学力向上を目指し、全国に先駆けて、教育現場に競争原理を導入してきた東京都足立区が揺れている。昨年の区の学力テストで成績1位に輝いた小学校が、学校ぐるみで正解を誘導していたことが判明したが、同校の校長は「足立の教育改革のシンボル的存在」として知られていた。学校はなぜ、不正に走ったのか。その背景を探った。

      【区教委が認定した学カテストを巡る不正】
      1. 昨年1位の小学校でテスト中、校長と学級担任の教師の計6人が答案を見て回り、指などで児童に誤答を示唆。教師はいずれも「管理職の指示があった」と証言
      2. 4小学校と中学校で本来は返却しなければならない前年度の問題をコピーして児童に練習させていた
      3. 2小学校で学習に遅れのある児童などの成績を、保護者の了解を得ずに全体集計から除外した。

    ■シンボル
     「学力調査(テスト)の結果が向上すれば、(保護者に)『頑張った分だけ、効果が表れましたよ』と胸を張って説明できる」
     今回、区教委の調査に自ら正解の誘導行為を認めた小学校の校長は、昨夏、ある教育雑誌のインタビューでそう力説していた。前年の学力テストで全72校中44位と低迷した同校は、昨年4月のテストでは1位に躍進していた。
     校長は同区出身で、2004年度からこの小学校に赴任。複数の教師が脇力して学年全体の担任となる「学年担任制」など、先進的な取り組みを実践し、その手腕が何度も教育雑誌で取り上げられてきた。
     「彼は足立の教育改革の象徴だった。それだけに、今回の不正はこれまでの改革を根底から崩しかねない」。校長をよく知る区幹部は危機感を隠さない。

    ■競争原理
     足立区は02年度、小中学校とも区内の全域から自由に選ぶことができる「学校選択制」を取り入れた。05年度からは区が実施する学力テストの学校別順位をホームページで公表。今年度似降は、テストの成績の伸び率を各校の予算配分に反映している。
     「区内の治安悪化や、他との所得格差などの問解を解消するには、教育を立て直すしかないという強い思いがあった」。同区の教育改革を担当した幹部はそう振り返る。03年度の都の学力テストで23区中最下位となるなど、区全体の学力低迷も深刻だった。
     しかし、テスト順位が公表され、各学校が厳しい競争にさらされるようになったことで、「学カテストの結果はプレツシャーになった」と、ある小学校の校長は打ち明ける。「成績が悪ければ、児童が集まらなくなり、定員割れの恐れもある。さらに予算に差をつけられると思うと、相当な重圧だった」と言う。

    ■他校でも?
     答案の誤答部分を指で示して生徒に気づかせる不正行為について、区教委は他の学校では確認できなかったとしている。しかし、区教委の調査は校長からのヒアリングにとどまっており、ある小学校の中堅の男性教師は「不正は蔓延している」と証言する。
     男性教師は昨夏、区内で開かれた教師同士の集まりの席で、別の学校に勤務する旧知の教師から、昨年4月の区の学力テストで、「指さし」による誤解答の示唆をしたと明かされた。この学校も、前年から大幅に順位を上げていた。同席していた他の学校の教師も「うちの学校も似たようなもの」と話し始めたという。
     また、昨年の学力テストの問題は、前年と同じ業者が作成し、計算式に出てくる数字や解答する漢字までほぼ同一だった。区は「同じ問題の方が学力を比較しやすい」と説明するが、前年の問題を繰り返し練習させれば高得点につながる可能性があった。
     教育評論家の尾木直樹さんは「学カテストの本来の目的は、一人一人の弱点を発見し、適切な指導につなげることだ。しかし、順位公表などで学校側に重圧を与えたことが、ゆがんだ競争意識を呼び起こし、不正を生んだのではないか」と指摘している。


    例3. AO入試を「青田買い」の手段に
    (読売新聞, 2007-06-11)

    AO入試過熱 大学も「青田買い」

     受験生の意欲や個性などを総合的に評価する「AO入試」で、選考時期や合格者の内定時期を早める大学が目立ち始めた。来年度入試では今月中に内定を出す予定の所まである。

     こうした「青田買い」ともいえる一部の大学の動きに対し、危機感を強める専門学校業界も来年度からのAO入試導入を打ち出した。大学全入時代を迎えて過熱する学生争奪戦に、高校側からは「AO入試が安易な学生確保の手段になりつつある」との批判が出ている。

     「うちの大学を第一希望にしてくれる高校生は、早い時期に通してあげたい。AO入試は、早く進路を決めたい高校生と、入学生を確保したい大学の両方にとっていい制度」

     今月からAO入試の受け付けを始めた首都圏の小規模大学の関係者は本音を打ち明ける。この大学では、面談とリポートをもとに、早ければ月内にも合格内定を出す予定だという。

     AO入試は、多様な資質を持った学生を書類審査や面接、小論文などを通して選ぶ。2006年度の大学入試では国公立大45校、私立大では約7割にあたる380校で実施された。

     しかし、文部科学省のガイドラインで試験日程などが定められている一般入試や推薦入試と異なり、AO入試の日程については規定がない。このため、複数の予備校関係者によると、これまでは推薦入試の出願が始まる秋ごろに合格発表を行うのが一般的だったが、定員割れの大学が目立ち始めたここ2〜3年、夏休み前に選考を始めたり、正式な発表前に合格内定を出したりする大学が増えてきたという。

     各大学が公表している募集要項などによると、来年度のAO入試で、6月中に合格内定を出す予定の大学が少なくとも7校、7月中が15校、このほか、6〜7月に選考を開始する大学も30校近くある。教育出版社「旺文社」の大塚憲一・教育情報センター長は、「地方大や女子大など、学生の確保に苦労している大学ほど、AO入試の日程を前倒しする傾向がある」と分析。「個性的で時間をかけたAO入試を行う大学がある一方で、形式的な面談やリポート提出で内定者を決める大学も少なくない」と指摘する。

     一方、少子高齢化で生徒数の減少に悩む専門学校業界では、東京都の専門学校で作る「東京都専修学校各種学校協会」が、来年度入試からのAO入試導入を表明。7月1日から選考を始める。兵庫県の専門学校も来年度からAO入試へ参入する予定だという。

     ただ、高校側では懸念の声も多く、都立高の男性教諭(49)は「進路が早々に決まって、2学期以降、授業に集中しなくなる生徒が増えてしまう。大学入学後が心配だ」と話している。

     AO入試 AOはアドミッション・オフィス(入試事務局)の略。アメリカで生まれた制度。99年度までは私立大13校が行っていただけだったが、2000年度に国立大が参入して以降、実施する大学が増えた。AO入試による06年度の入学者数は3万5389人で、全体の約6%。


    例4. 特区利用株式会社大学
    (読売新聞, 2007-07-03)

    LEC大学 札幌など10校募集停止──08年度以降
    特区利用,見通し甘く


     構造改革特区制度を利用して株式会社が初めて設立した「」EC東京リーガルマインド大学」(反町勝夫学長)が、2008年度から全国14校のうち、首都圏と大阪の4校を残し、札幌、福岡など10校の新規学生募集を停止することが3日、わかった。同大は今年1月、文部科学省から不適切な大学運営について改善勧告を受けていた。同大や自治体の、構造改革特区制度に対する甘い見通しを露呈した。
     同大は、全国で司法試験予備校などを経営する「東京リーガルマインド」(東京都千代田区)が2004年4月、構造改革特区を利用して千代田区と大阪市で開校。札幌市も、札幌キャンパスの開設を目指す同大の意向を受け、2004年5月に「ビジネスフロンティア育成特区」を国に申請。翌6月に認定され、同大は2005年4月に札幌キャンパスを札幌市中央区のビル内に開校した。
     しかし、同大は今年1月、文科省から「大学と予備校が事実上同一化しており、大学の目的に照らして疑義がある」などと改善を求められ、「当初想定していた大学の運営方法の大幅な変更が必要であり、すべてのキャンパスを維持するのは困難」として、縮小などを自治体と協議してきた。
     札幌市は、同特区計画の目標として、(1) 株式会社の学校設目により高度なキャリア教育を実現 (2) 高い専門性を持った人材の育成による地域の活性化を挙げていたが、頓挫する。札幌キャンパスには現在、36人の学生がおり、市は在校生が全員卒業した段階で特区計画を廃止する。


    (読売新聞, 2007-01-26)

    会社設立大学 解禁見送り、政府 特区で問題多発

     構造改革特区だけに認められている株式会社による学校設立について、政府は25日、全国解禁を当面の間見送る方針を固めた。株式会社が初めて設立した「LEC東京リーガルマインド大学」(本部・東京都千代田区)の法令違反が明らかになるなど、株式会社立の学校の多くで経営面や教育研究面に問題が見つかったためだ。
     文部科学省は同日午後、LEC大に対し、学校教育法に基づく初の改善勧告を発動。改善した内容について、30日以内に書面で報告するよう求めた。
     私立学校の設立・経営は、学校教育法で学校法人にしか認められていないが、2003年度から、特区制度を利用すれば株式会社も学校を設立できるようになった。現在、株式会社立の学校は、大学6校、高校13校、中学1校の計20校ある。
     特区制度は、弊害がなければ、一定期間後に、全国で規制を完全になくすことが前提となっており、株式会社の学校設立についても、政府の構造改革特区推進本部が2006年度中に、全国解禁を認めることを視野に検討を進めていた。
     ところが、文科省による株式会社立学校の調査で、〈1〉収支が赤字〈2〉大幅な定員割れ〈3〉他の仕事と兼務する教員の指導力不足〈4〉図書館の蔵書が少ない――などの問題が浮上。さらにLEC大が改善勧告を受けることになったことから、同本部は、全国解禁を見送らざるを得ないと判断した。
     一方、文科省はLEC大への改善勧告の中で、専任教員の実態と教育方法の2点が、大学設置基準などに明確に違反すると認定した。専任教員173人中106人が授業を全く行っていなかったほか、ビデオ授業のほとんどで教員が立ち会わず、質疑応答が可能なのはビデオ授業全体の約1%しかなかった。
     また、授業を行っている専任教員67人のうち40人は、経営母体の株式会社が全国展開する資格試験対策予備校で勤務していた。文科省は、大学と予備校が一体化している点についても改善に努めるよう求めた。
     今後、LEC大が勧告内容を改善できなければ、学校教育法に基づく変更命令、廃止命令に進むことになる。同大は、特区の株式会社立学校が解禁された初年度の特例により、わずか3か月の審査で設置認可され、04年4月に開校した。
     構造改革特区 地域限定で特定分野の規制を緩和する制度。自治体が計画を申請し、政府が認定する。これまでに株式会社の農業参入など計121件が、地域限定の規制が外され、全国解禁された。