2008-04-07の読売新聞に,つぎの記事が載っている:
728大学の「教育力」探る
全4年制 本社調査へ
全入時代を迎えた大学の教育力が問われている。4月からは教育力を組織的に向上させる取り組みであるFDが全大学に義務化された。読売新聞は4年制の全大学に教育力に関する初の調査を実施する。
調査は「大学の実力──教育力向上への取り組み」と題し、728校ある国公私立4年制大学の全学長に実施する。偏差値やブランドによらない大学選びのための情報を提供するのが狙いだ。集計結果は本紙に掲載する。ユニークな取り組みは、追加取材をして長期連載「教育ルネサンス」で紹介するなど、長期的に大学教育の現状を分析していく。
調査項目の設定にあたっては、大学教育や経営の現状に高い問題意識を持つ大学教職員、学長経験者ら13人による「大学の実力検討委員会」で検討を重ねた。
調査は、学生の授業評価や教員評価を始めとして、FDの取り組み度とその成果、学生の出席の把握状況や退学者数、学長自身の教育方針など、教育力向上の取り組みを多角的に問う。設問は約50項目で、4月下旬にアンケート用紙を発送し、5月23日に締め切る。
大学の実力検討委員会 (五十音順)
▽井下理(おさむ) 慶応大教授
▽岡村甫(はじめ) 前高知工科大学長
▽小田隆治・山形大教授
▽清成忠男・元法政大総長
▽佐藤浩章・愛媛大准教授
▽沢田進・大学基準協会参与
▽田村幸男・関西外国語大事務局長
▽福島一政・日本福祉大常務理事
▽船橋正美・日本能率脇会学校経営支援センター長
▽本間政雄・立命館大副総長
▽宗像恵・近畿大副学長
▽安岡高志・立命館大教授
▽横田利久・大学行政管理学会長
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アンケートの内容が示されていないので詳しくはわからないが,つぎのようなことが行われるらしい:
- 各大学の学長に,「教育力向上」に対する大学の取り組みをアンケートする。
- アンケートの回答から,各大学の教育力を判定する。
- 判定値を,「偏差値やブランドによらない大学選びのための情報」の提供として,読売新聞紙上で発表する。
この場合,論点としてすぐに頭に浮かぶのは,つぎのことである:
委員会は,「大学の教育力は,アンケートに学長がどんなふうに答えたかに示される。」と考えていることになる。これは正しいか?
学術研究レベルでは,「正しくない」が答えになる。
大学人ならだれでもわかるような単純なカテゴリー・ミステイク,論理的ナンセンスを,委員会はやろうとしている。
「教育力向上に対する大学の取り組み」ないし「大学の教育力」を知るには,どうするか?
その大学に入って,現場リサーチをする。
──もちろん,インタビューや資料収集ではなく,<実際・実質>がどうかを観察するというリサーチである。
これをやれば,妥当な判定をできるようになるか?
そうでもない。
対象がますます複雑な相で現れるようになる。
リサーチがどこまでも不十分であることを,身に染みて感じるようになる。
このことも,大学人ならだれでもわかる。
では,どうして「大学の実力検討委員会」みたいなことになったのか?
彼らは大学人ではないのか?
「大学の実力検討委員会」の愚は,「図に乗る」というタイプの愚である。
「大学教育や経営の現状に高い問題意識を持つ大学教職員、学長経験者ら」ということで,図に乗ってしまった。
「大学教育や経営の現状に高い問題意識を持つ」は,「大学教育や経営を適切に考えられる」を意味しない。
まして,「728大学の教育力を判定できる」「偏差値やブランドによらない大学選びのための情報を提供できる」を意味しない。
行政の「改革」路線は,「有識者が国を導く」という風潮をつくりあげた。
この度は,読売新聞がこの行政のやり方に倣ったわけだ。
「大学の教育力向上」のリード役を担おうとし,有識者会議を組織する。
「大学の教育力向上」のリード役に自らなろうとすることは,まことに結構であり,その気概たるやよし,である。
ただしこのときは,つぎのことがわかっていなければならない:
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