Up 生き残り→革新→全体主義・強権 作成: 2007-08-22
更新: 2007-08-22


    国立大学は,「法人化」を<生き残り>の課題として与えられた。 ──あるいは,「法人化」が<生き残り>の課題のように与えられることを好んだ。 (<生き残り>のことばに,「社会人への仲間入り」のような新鮮な響きを感じたのである。)

    <生き残り>の課題に対し,国立大学は「革新」で対応しようとする。 すなわち,これまでの在り方の否定の上に,再出発しようとする。

    否定されるべきこれまでの在り方は,つぎのものである:

    • 成果主義・評価主義・競争主義・グローバリズムに対し後ろ向き
    • 経済主義・商業主義・顧客主義に対し後ろ向き
    • 経済界への貢献に対し後ろ向き
    • 全体主義・画一主義・強権・トップダウンに対し後ろ向き


    これらの改めを,全体主義をスタンスとし学長強権を方法にして,進める。
    これは,総動員と画一主義に向かうわけなので,国立大学の精神風土の中にある自由主義 (個の多様性) とデモクラシーが障害になってくる。
    実際,総動員・画一主義は,明示的な抵抗には会わないにせよ,実質においてうまくいかない。

    企業や独裁国家は総動員・画一主義ができて,国立大学はできない。 このときの両者の違いは,terror (恐怖) を組織管理手法に使えると使えないである。
    国立大学の「法人化」は,まだ terror (恐怖) をつくり出すところまで進んでいない。 ──これは,幸いとすべきであり,「法人化」の欠陥とすべきではない。





    読売新聞, 2006-09-02
    国立大が収益アップ大作戦、学内ロケ誘致に松阪牛飼育

     一昨年に法人化した国立大が、増収や経費節減に奮闘している。
     キャンパスをロケ地にしたり、育てた松阪牛を出荷したりして収入の増加を図る一方、学内の蛇口に節水器具を付けるなど涙ぐましい経費節減も。どの大学も黒字の確保を目指し、知恵を絞る日々が続いている。
    遠洋航海や漁業の実習用に100トン以上の練習船4隻を持つ東京海洋大。原油価格高騰でも、燃料費がかさまないよう節約に努めたが、昨年度の燃料費は前年度より2500万円多い1億2500万円かかった。その穴埋めに貢献したのが、法人化後、受け入れ始めた学内でのロケだ。
     東京都江東区のキャンパスには歴史ある校舎が残り、最近では、映画「ハチミツとクローバー」やテレビドラマ「野ブタ。をプロデュース」が撮影された。昨年度は19回のロケで、約300万円の収入となり、「臨時収入は本当にありがたい」と担当者は語る。
     収益を上げても国庫に入るだけだった国立大は、一昨年4月の法人化で独立した裁量権を持つようになり、収益を独自の判断で学生や研究のため使えるようになった。一方、国からの交付金は法人化以降、年々減額され、効率的な経営も求められている。
     「収入増に加え、PRにもつながる」と、多くの大学がオリジナル商品の開発に取り組む中、三重大は同大の農場で松阪牛の飼育を始めた。職員は、松阪牛の農家を訪ねてノウハウを教えてもらったり、「神戸大学ビーフ」を東京のデパートなどで売り出している神戸大に視察に行ったりした。
     牛舎を個室化し、自家製のワラを食べさせて大事に育て、今冬、市場に出荷する。職員の一人は「松阪牛のブランドで肉の付加価値が上がれば、増収につながる。神戸大には負けられない」と意気込む。
     東京農工大も今年1月、学内にアンテナショップ「農工夢市場」を開設。地域住民らに大学の農場でとれた野菜や果物、ジャムなどを週1回販売している。正午の開店前には行列ができ、昨年度は前年度比約121万円の増収になった。
    ‥‥ (略) ‥‥
    増収や経費節減に向けた国立大の取り組み
    北海道大 昨年11月にミュージアムショップを開設し、クラーク博士の写真入りの懐中時計など大学公認のオリジナルグッズを販売
    岩手大 農家の馬や牛などの家畜を診療する大動物診療部がある農学部付属動物病院の教官を増員。家畜治療での収入増が目的
    福島大 有料の臨床心理相談や教育相談、ビジネス研修講座を開設
    東京芸大 大学美術館の展覧会や奏楽堂でのコンサートを積極広報し、入場者を増やして、入場料の収入増につなげる
    愛媛大 学内で焼却したり、一般ゴミとして出していた紙類をリサイクル業者に委託して、トイレットペーパーと交換し、焼却費、処分費を節約した
    香川大 学生と教職員が年3回、構内大そうじを行い、業者への委託費分、年300万円を節約
    島根大 農場で生産するサツマイモを原料に芋焼酎を製造、来年3月発売予定


    読売新聞, 2006-03-03
    物言えぬ"恐怖統治"
     「なんだこの弁当は!」
     浅井学園の前理事長・浅井幹夫容疑者(57)が、激高して担当の職員をどなりつけた。
     浅井容疑者は、ある会議で出された仕出し弁当の中身が不満だったのだ。職員は解雇こそ免れたが、「クビにする」と厳しくしっ責を受けたという。
     これが、学園の日常的な雰囲気だった。職員は常に緊張を強いられ、ハワイ好きの浅井容疑者がバカンスに出かけると、ようやく学園の空気がなごんだ。
     昨年3月。文部科学省の「特色ある大学教育支援プログラム」の審査委員だった浅井容疑者が、内規に違反して申請書類を大学幹部に見せていたことが発覚した。同省への内部告発だった。委員を引責辞任した浅井容疑者は、学園幹部に命じ、告発者捜しに血道を上げた。何人も“犯人”扱いされ、業務外のことで多くの職員が疲労を重ねた。
     インターネットの掲示板に学園に絡む書き込みがあると、執ような犯人捜しが続き、「おまえか」と詰問が繰り返された。
     学園関係者の一人は「理事長権限がすべてだった。逆らうものは学園から消えていく。恐怖体制そのものだった」と振り返る。
     浅井容疑者の側近や親族職員の存在も、一般職員には恐怖だった。親族職員の言動や素行をたしなめた学園関係者の中には、孤立し退職した者もいた。
     側近だった事務局幹部は、部下のパソコンを背後に回ってチェック。机の中も「私物があるはずがない」として容赦なく開け放ち、中身を検査したという。
     2002年7月に江別の大学で行われた、札幌市中央区の「北方圏学術情報センター」(ポルト)引き渡し式。
     「こんなもの受け取れるか」。浅井容疑者は、怒声を上げて引き渡し書を床に投げつけ、会議室を出て行った。建設業者、大学関係者らが並ぶ前で、大手ゼネコンの支店長は、無言で引き渡し書を床から拾い上げた。「さすがにすみませんとは言わなかったが、さぞ悔しかっただろう」と、目撃した関係者は振り返る。
     不満の原因は、エレベーターの電飾だった。浅井容疑者は、歓楽街のビルのような、乗りかごが光る電飾を望んでいた。しかし、ポルトの場合、電飾が付けにくく、そもそも教育施設にはそぐわないとして見送られたが、それが浅井容疑者を怒らせたという。その後、電飾が施された。
     04年に始まった札幌国税局の税務調査。浅井容疑者の大声が大学の廊下に響き渡った。相手は不利な書類を押さえられた学園職員。「不条理な理由で人間性まで否定されるからたまったものではない。精神的にまいった」と振り返る。
     「『高額納税者だぞ』と言ってはロードヒーティングを整備させ、病院で待ち時間があると『高い保険料を払っているのにけしからん』と怒る。子供そのもの。それが、何人もの職員、大学教授、学生を束ねるトップであることが大問題」
     異を唱える職員はことごとく学園を去り、沈黙する職員で組織された学園の運営は、浅井容疑者の暴走に一層拍車をかけていった。